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「アンバー、こちらへ来なさい。お前に紹介したいひとがいてな。家柄もいいし、年齢もつり合いが取れている。こんなに素晴らしい相手に巡り合えた幸運を喜ぶがいい」  念入りに準備された豪華絢爛な夜会会場で、父が大声でわたくしを呼んでいた。そのご子息を自然にわたくしに紹介するために夜会を開いたはずなのに、流れもなにもあったもんじゃないわね。 「あら、お父さま。わたくしもちょうど、お父さまに紹介したいひとがおりますの。失礼してお先によろしいかしら」 「お前は何を勝手に」 「紹介いたしますわ。こちら、学園で同級生のレーンさま。今は騎士として働いていらっしゃいますの」  ちらりと彼を見た父は、さっと上から下まで目を動かすと鼻を鳴らした。少なくとも身なりには文句がつけられなかったようね。当然だわ、本日の彼の服装はわたくしが調えているのだから。うるさい父に足元を見られるような恰好をさせるはずがないでしょう? 「それで、どこの家門だ。社交界で挨拶をした記憶がないが」 「お父さまが記憶されていないのも当然ですわ。なぜなら、レーンさまは平民の出身ですから。皆さまの覚えもめでたく、非常に前途有望な方ですの」 「それで、この男がどうした?」 「わたくし、彼と結婚いたしますので一応報告をと思いまして」  紹介されたレーンは、普段わたくしにつけられることのない「さま」という尊称にむずがゆさを覚えたみたい。もぞもぞとなんとも居心地の悪そうな顔をしていたけれど、父の方を見ると一瞬で雰囲気を変えてみせた。父親への挨拶というのは、殿方にとっても戦いですものね。 「はじめまして。レーンと」 「はあ、平民と結婚? 冗談も休み休み言え」  もちろん、予想通り父はレーンの挨拶を遮ってきたけれど。あらあら、すごい青筋。血管が切れて倒れるのではないかしら。 「お父さまったら。わたくし、面白くない冗談を言う趣味はありませんのよ」 「こんな平民男の何が良いと? まさか……この阿婆擦れが!」 「はあ、すべてを下品な話に結びつけるなんて。それではわたくしの用件は終わりましたので、失礼させていただきます」 「待て、話はまだ」 「レーンさま。あちらは、この日のために東の島国から特別にお取り寄せしたものです。ぜひご賞味くださいませ」  父の顔が赤くなったり青くなったり忙しい。それなのにレーンときたら、この状況を楽しんでいるみたい。わたくしの大好きなお日さまみたいな笑顔がまぶしい。最高だわ、それでこそわたくしが見込んだ男よ。
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