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それは私が中学二年生のときのこと、まだ高校受験の準備には早いと言いつつも私は親の勧めもあって部活をせずに夕刻から学習塾に通っていた。校庭では曜日によって野球部やサッカー部が練習に励んており、それと同様に体育館ではバレー部とバスケットボール部が日替わりで練習していた。
あの日、いつものようにそそくさと帰宅する私の視界にひとりの少女の姿があった。体育館の脇で声を上げながらスクワットをする少女、それを見張るかのように腕組みをして立つ二人の部員。それはミスでもやらかした後輩部員に罰ゲームを与える先輩部員といった構図だった。
白いシャツの下にはネイビーブルーにクロムイエローのラインが映えるロング丈のジャージという姿で偉そうな態度で立つ二人に対して、白いシャツに白いショートパンツと白のバスケット用ソックスという見た目から、こちらに背を向けてしごかれている少女は一年生部員であることがわかった。
「イチ、ニ、サン、シ……ゴ、ロク、シチ、ハチ」
頭の後ろで手を組んで声を上げながら尻を落としては立つ、いつ終わるとも知れないスクワットを強いられるのはかなりキツいことだろう。案の定、時折声がかすれたり途切れたりする。するとそのたび先輩部員の叱責が飛ぶ。
いつもは無関心に通り過ぎる体育館であるが、その日はまるで私刑のようにも映るその姿にすっかり目を奪われてしまった。
疲れとともに弱まる声、よろめく足、そのたびに激しく飛び交う先輩の叱責、そして再び振り絞るように声を上げる少女、その光景はまさに責め続けられ喘ぎ声を上げているかのように思えた。
汗にまみれた白いシャツ、当時は今よりもずっとショート丈だったサテン地のパンツ、ほんのりと赤みを帯びる白い太腿、少女が腰を落とすたびに張り詰めた光沢が尻の曲線を露わにする。こちらからは伺えないが、きっと少女のその顔は激しい呼吸とともに歪み紅潮して汗が浮かんでいたことだろう。
嗜虐的――そんな言葉をまだ知らなかった私は、何かいけないことを覗き見ている罪悪感とそれをはるかに上回る奇妙な高揚感に心は満たされていた。
そして遠目だったとは言えあの日に見たその光景は私の脳裏に焼き付き、絞り出すようにかすれた少女のあの声も私の心の奥に深く突き刺さったのだった。
それからの私は放課後の体育館から聞こえてくるドリブルするボールの音を耳にするたびドキドキとした気持ちに包まれるものの、しかしその練習風景を覗いてみる度胸もなく、ただただあの少女があの場所で再びしごきを受けるシーンに遭遇できることばかりを期待するのだった。
思えば私がバスケットボールパンツのサテン地にこだわりを感じるのはそんな経験に端を発しているのは明らかだった。
私はあの光沢を見るたびにあのとき光景とそのときに想い描いたサディスティックな衝動と少女への淫靡な妄想がフラッシュバックするのだ。だから同じサテン地でもシルクのランジェリーやドレス、バレエのトゥーシューズには何も感じないのだ。
ただ、純真無垢な少女の身に纏わるトリコットサテンの光沢だけが私の心を満たすのだった。
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