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3部
ピンポーン、ピンポーン。インターホンが何度も鳴っている。
こんな夜中に誰なのよ。放っておこうかと思ったが、あまりにうるさいのと、自分の名前を呼んでいるような気がしてスコープを覗いた。ドアの向こうには見知らぬ女性が険しい顔で立っていた。何か言いたそうなので、チェーンをつけたまま玄関のドアをわずかに開けて様子を伺った。
「ちょっと!深冬!大丈夫?」
開けるなり女性は隙間に顔を挟むようにして一気に捲し立ててきた。しかも初対面なのに慣れ慣れしく下の名前で呼んでくる。そもそも何で私の名前知ってんのよ。
「電話にも全然出ないし、約束もすっぽかすし。とりあえずドア開けてよ!」
「あの、すみません。どちら様ですか?」
私の言葉を聞いて、相手の顔を激しく歪んだ。
「はっ……、何言ってるの…?」
「それはこっちの台詞です。だいたい何で私の名前知ってるんですか?」
「……私、千夏……」
「そんな人知りませんけど。帰ってください。警察呼びますよ」
口を開けたまま驚いた表情の女性を無視して、私はドアをバタンと閉めた。あぁ、気持ち悪い。この記憶も早く消さないと。私は最後の一錠を飲んだ。
一時間後、気分が徐々に落ち着いてきた。それと同時に少し懐かしい気分になった。私はベッドに横になり、体を沈めた。千夏……どこかで聞いたことのある名前だった。誰だろう……昔の記憶を辿ってみる。あぁ、そういえば、高校の友人にいたような。いつも明るくて、正しくて。その上にみんなに好かれていて、私にないものをすべて持っているクラスの人気者……。
そうだ、私は彼女のことをずっと妬んでいたんだっけ。
嫉妬心と彼女の顔が記憶の外側へゆっくりと落ちていった。
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