わたしたちに春は来るのか...

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ー 眠りについて私は夢をみる。毎日みるわけではないけど、今回はいつもと違う。登場人物は普段の生活にでる人物ばかり。クラスのみんな、近所の人、家族。正夢の可能性が高い。朝、学校へ家を出ると外にミドがいる。学校の校門までついてくる。後ろを振り返ると校門の前でミドが待つような体制をしている。教室に入ると愛美はまだ見当たらない。一応安心して席についたとき和也が脅かしてきた。話しかけているのが見える。内容は聞こえない。口パクだ。それに私も彼と話している。なんでだろう、何を話しているんだろう。愛美が教室に入った瞬間和也はグルメンの方へ向かった。すると予鈴のチャイムが鳴った。びっくりして私は飛び起きた。六時にセットしたアラームが鳴っていた。止めて部屋に付いている洗面所に向かってトイレで用を済ませてから洗顔、歯磨きをする。ウォークインクローゼットに入って動きやすい服に着替える。リビングに向かうとすでに時透さんが作ってくれた朝ごはんが並んでる。母は新聞を読んでいて、父はコーヒーを飲んでいた。「おはよう」「おはようございます、よく寝れましたか?」「うん」「おはよ、さあみんなでご飯食べましょう」母が言い、いただきますでみんなは食べはじめた。母と私はパン派で父と時透さんはご飯派。おかずはみんな目玉焼きとベーコン、味噌汁(父と時透さん)コンソメスープ(私と母)とアボカドサラダだ。 ー 栄養バランスが考えられている時透さんの手料理はやっぱりいつ食べても美味しいな 時計を見ると六時四十分。食べ終わったから食器を台所へ持っていき、携帯と無線イヤホン を手に取り朝のジョギングをしに行った。朝はなにも変わらない。なんも変哲もない一日を始めてくれる美しい朝だ。一、二のリズムで走る。音楽を聴きながら走っていると、誰かが歩道でしゃがんでいるのを見た。体調が優れていないのなら大変だ。イヤホンを耳から取って声をかけてみた。「あの、大丈夫ですか」と。よく見るとその人は男性で黒猫を撫でている。「あ、はい?」彼は振り向き目があった。絶句。稲妻が脳に広がったようにドクンと緊張感が一気に襲った。「って、華じゃん。おはよ」「お、おはようございます」「ここで何してるの」「え、えっと。じ、ジョギングしてた」納得してるような顔でうなずいていた。「俺もジョギング。いやあ、まさかジョギング中に華と会えるとはな」「木下さんもジョギングしてるんですね、あのその猫は」私は和也が撫でていた黒猫を見つめた。視線を感じたのか黒猫もこっちを見て目があった。「あ、」この猫見覚えある。黒いふわふわな毛。緑色のきれいな瞳。耳に小さい穴。間違いなくミドだ。ミドを見つめていると和也が不思議そうな顔で私を覗いてた。「ん、どしたん。華」「え、ああ。この黒猫が」するとミドは立ち上がって私の脚に顔をスリスリしてきた。やっぱりミドだ。私はしゃがんでミドを撫でてあげた。「また会えたね、ミド」優しく呟くとニャーと返事をしてくれた。「ミド?」「そう、ミド」「名前付けてるの?野良猫に?」野良猫って失礼な言い方だなあと思った。ミドは和也に向かってシャーと怒っているように鳴いた。焦っていた和也はミドに向かって何度も謝っていた。その光景が面白くてつい笑ってしまった。「何笑ってるんだよ、この猫をどうにかしてくれよ華」「この猫とか野良猫って、この子にはミドって名前があるの」「ああわかった、ごめんってだから助けてって」「私に謝らないでよ」苦笑した。「ミド、ごめん。ごめんって」何度彼が謝ってもミドはシャーとしか言わない。ミドの顔を見つめると満足そう。 ー 彼をからかっているのかな、可愛いな 「華、華たすけてくれ」「はいはい、仕方ないなあ。ほらミドおいで」抱っこをするように腕を広げて言うとミドは私に向かって歩きだした。「もう木下さんを困らせちゃ駄目だよ」ミドを撫でてあげる。満足そうに笑みを浮かべるミドを見るとこっちも笑顔になる。「あのさ、苗字じゃなくて和也だけでいいよ」「え、呼び捨てでいいの?」「うん。あ、てか俺ら普通に喋ってるじゃん」と嬉しそうに言っていたのが伝わった。そう言われれば二人で普通に話している。気づいたらタメ口になっていた。 ー 木下さんとはあまり関わりたくない。名前は言うつもりないです。 あの時私が和也に言った言葉がふと頭に蘇る。フラッシュバックのように。「あんなこと言ったのに、気にしないの」「あんなこと?」「あの、木下さんとはあまり関わりたくない。名前は言うつもりないですって前言ったじゃん」今思い出したのかはっとした感情で彼は答えた。「気にしてないよ、今こんな風に話せてるんだから。学校でもっと話そうよ」ノリの波に和也が乗ったように彼が語る言葉はどんどん早くなってきていると感じた。いいよ!って返したいけど、学校で話すのは愛美がいるから無理なことだと思った。今こんなに楽しく話せるのは多分愛美がいないからだ。彼女に見つからないと私は確信しているからこんなに楽しく話せるのだ。 ー 木下さん、いや。和也と話すのがこんなに楽しいなんて思いもしなかった。 話しやすい。和也と話すと楽しい気分になる。でも学校で話すのは愛美に見つかるリスクがある。そのリスクに手を付けたくない。私はそのリスクにかからないことにした。ごめん、その言葉が頭に浮かんだ。「ごめん、学校で話すのはちょっと無理かな」残念そうに答える。正直もっと話したいと思っているがそれは許されないことだと感じた。なんでよと彼が聞いてくる。その声は少し悲しそうで疑問に満ちていた。「それは、ちょっと言えないかな」私は心に針がチクッとさされたような感じがした。言えないと答えても和也はなんどもしつこく理由を聞いてくる。彼が聞く度に針がさされたような気がするからいい加減にしてほしいと思い携帯の画面を見て時間を確認した。七時を過ぎていた。今私がいる場所は家まで二十分ぐらいかかる。家に帰っても学校の準備があるから早く戻らないといけない。和也が質問してくるたび胸がきつくなる。ふと考えると今の時間的に帰るとなるとまあまあ都合が良かった気がする。 「ごめんけど、もう時間だから帰らなきゃ。」「え、早くない?」キョトンとした顔が私の目を見つめる。「ここから家まで二十分かかるし、学校の準備しなきゃだから」と正直に言った。「そっか、じゃあまた学校で。話せたら話そう」「話せたらね」苦笑した。 彼はミドにまたなと頭を撫でて去っていった。 ー 私もそろそろ帰らないと。 そう思い立ち上がるとミドが私の足の周りを囲むようにくるくると回っていた。 ニャーニャーと悲しむような鳴き声。ミドの目が私をじっとみつめてくる。 「ミド、私帰らないと。また学校が終わったあと会おうね」頭を撫でてあげた。今の時間は 七時二十分。早く戻らないといけない。私はミドにまた後でねとだけ残して家まで走っていった。正直ミドを一人置き去りにするのは悪いことをしたと感じる。でも早く戻らないと学校に遅刻する。でも... 私は首を振り頭を整理した。 ー 今しなきゃいけないことをするのが一番 気づいたら家についていた。走って疲れていた。息が荒くて時透さんに心配された。「華さん、すごい過呼吸ですが。なにかなさってたんですか?」「ううん、なにもないよ。走って帰ってきただけ」私は自分の学校の制服をクローゼットから手に取った。「そうですか、いつもは帰ってきた時普通だったので。心配しました」私はそれを聞いた時手を止めた。 心配か、呼吸が荒いだけで心配するとなったら学校のいじめみたいなことを言うとどれだけ心配されるのだろうか。考えるだけでムズムズするし締められたように苦しくなる。 ー 父と母、時透さんに迷惑がかからないようにしないと ふと気がつく。時透さんが名前を呼んでいた。何回も何回も。「華さん?大丈夫ですか?」「え、ああうん大丈夫だよ。どうして?」私は焦っていた。「朝からぼーっとしてますけど、体調は大丈夫なんですか?」相当心配してる。時透さんからの発言一つ一つでそのことがわかる。念のため私は着替えてから時透さんの言う通り熱を測った。 ピピピピッピピピピ シーンとした部屋に体温計の音が鳴り響く。熱を見ると三十六度五分だった。平熱で安心した。熱の結果を時透さんに伝えると安心したように私を玄関まで見送ってくれた。 歩いて登校。まあいつも通り。マンションのロビーを出ると、ミドが座っていたのが見えた。びっくりした。朝のジョギングのところからだいぶ離れた場所にあるのに。しかも走って帰ったからミドがついてこれるはずなかった。「ミド?」聞くと、ニャーと返事が来た。 「よくここまで来れたね」私は笑いながら頭を撫でた。「それじゃあ私は学校に行くね」と言い歩き始めると歩道を歩いていた他の人達がこっちをチラチラ見てきている。 ー なんでこっち見てきてるんだろう、なにかおかしのかな そう考えながらあるき続けると足になにかふわふわなものが付いている気がした。気になりはしないけど、歩けば歩くほどきになる。足を見ると、なにかの毛がついていた。 ーなんだろうこれ そう思って周りを見るとミドがついてきていた。本当にびっくりした。学校も直ぐ目の前にあるというのに、学校の中にミドが入ってくると厄介なことになる。私はミドに、「ミド、ついてきちゃ駄目だよ。学校に入らないで、昨日会った場所に帰って。」そう言ってもミドはびくともしない。このままミドに構うのは時間の問題だ。内心ちょっと心配していて焦っていた私は学校の校舎に設置してある時計を見上げる。そろそろ教室に戻らないといけない。私はミドにまた後でね、とだけ言って校舎に向かってあるき始めた。すると、後ろから可愛いと騒ぐ女子の声が聞こえた。気になって振り返ると、ミドが集団に囲まれていた。 ー 戻ったらタイムロスだ、ミド頑張れ 教室に入って「おはよう」と挨拶をしたが誰も返事をくれなかった。いつも通り無視されて席について本を読む。夢中になってると後ろから頭になにかがぶつかった。 思わず「いたっ」と言って後ろを振り向くと、バッグを持っていた和也がいた。なにで叩かれたのかはすぐわかった。彼のバッグで頭をたたかれたのだ。彼はわざとしたっぽい感じの笑みを浮かべて、おはようと挨拶してきた。もちろん私は彼を睨んだ。「、、バッグで叩く必要なくないですか」彼は笑いながらごめんごめんと返して席についた。一体何がしたかったのだろうか。再び本を読もうとすると、彼にまた話しかけられた。「何読んでるの」と。愛美がいないから少しだけなら話してもいいかなと思った。リスクを負うことにはなるが。「私達に春は来るのかって言う本です。」思わず敬語で返してしまう。今朝は普通にタメ口だったのに。感心してるようにこっちをみて来る和也は、「どういう本なの?」と聞いてきた。「気になるなら調べたらどうですか、私が教える必要なんてないと思います。」「えー、でも華から聞きたいな。だめかな。」どうしてもというならと私は返した。周りを見渡して、愛美がまだいないということを確認した。「この本は三人の登場人物の視点を章ごとに書かれている本です。ヒーロー、ヒロイン、いじめ役。この三人です。恋愛?みたいな本です。」恋愛なのかまだわからない、今私が読んでいる部分はまだヒーローとヒロインが話し始めた頃だから。「へー、終わり方はどんな感じなの?」「まだ読み終わってないのでわからないです。」「じゃあ、読み終わったら貸してよ」「別にいいですけど」彼はやったとガッツポーズをした。やれやれと思っていると、廊下からかすかに愛美の声がした。このまま話していると怒られる。 「もう席に戻った方がいいですよ」「え、なんでよ」 ー お願い否定しないで! 「席に座りたくないなら他の人と喋りに行ってください」「なんでそんなに焦ってるの」何処かに去る気配はなく逆に私にグイグイと質問してきた。「いいですから、早くどっかに...」「おはよー」愛美の声が教室に響き渡り私が言おうとしたことが最後の最後でとぎれた。愛美が他の子たちと話している隙に私は和也を押して追い払った。 ー 手遅れでありませんように そう願うことしかできなかった。だけどもう手遅れだった。愛美は私が和也を押したのが見えたのだろう。彼女は私の方に向かって来た。幸いにも何も言われなかった。ただ目の前に立って私を睨んできただけ。その鋭い眼差しの中になにかメッセージがあった気がした。私の考えだと、サッカーだとイエローカードを一枚与えられたような気がした。和也と関わるな、和也に手を一切触れるな。みたいな。圧もすごかった。異変に気づいたのか和也は愛美におはよ、どうしたのと聞いていた。私は愛美の圧で何も言うことができなかった。するとまた圧をかけられた気がした。「お前はなにも言うな」っていうメッセージが込められている気がする。私はもう下を見てうつむくことしかできなかった。そして愛美の口が開いた。 「おはよう和也!何もないよ!」「そうか、で華はどうしたの急にうつむいて」話がこちら側に来てしまった。私は立ち上がってトイレに歩いていった。和也を無視するように。 「華ちゃん、気分悪いんじゃないかな。お手洗いに行ったみたいだし」「そっか」「私もちょっと手洗いに行くね。外から中に入ってきたし、手を洗わないとだめだからさ」不自然さがないように愛美は言った。彼女は和也をあとにし、花乃、凪、みなみを呼んでトイレに向かった。私はトイレで用を済ませて個室から出た。ため息をついてふと見上げると、愛美たちが腕を組んで立っていた。私に用じゃないようにと願って避けようとすると、呼び止められた。「ちょっと!どこ行く気なのよ」やはり私への用だった。「私ですか。なにか用ですか」とこごえながら言うと怒鳴られた。「あのさ、本当にうっざいの。なんで和也と話すの?」「話す気なんてそれっぽちもないですよ」「嘘だ、じゃあなんで話してて和也がおまえと話してて笑顔なの」「それは、、」言いかけたその時頬の感覚が消えた。ビンタをされた。痛いっていう感覚なんてなかった。愛美たちはやりきった感じの顔をして私の肩にわざとぶつけて去っていった。鏡を見ると、顔には手形が赤く薄っすらと残っている。うちの学校はメイクが禁止だから、手形を隠すファンデなんてない。他の女子たちはバレずにメイクをしているから持ってるだろうけど、この学校で孤独な私が貸してもらえるわけがない。少しでも殴られた形跡を薄めるために、私は顔を水で洗った。冷やすためだ。休憩時間が終ると気づいたから教室に戻っていったけど、みんなから顔をジロジロと見られている気がする。授業中コソコソと私を見て話している子だっている。 ー 顔に残ってる手形にみんな気になってるのかな 私は気にしてないように席についた。チャイムが鳴った。教室に担任の先生の谷川先生がホームルームを始めると言いながら入ってきた。クラスのみんなは先生に集中するから私の気配は消せる。でも、ホームルームが終わるとみんなは「なんであの子〇〇なの」とか「なんであんなふうになったの」とかそういう言葉がこもっている視線を送ってくる。気にしていると時間の無駄だから私は無視をして授業の準備をした。
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