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等々私の夢の目標が灰となった。バレてしまった。私が大好きな人に。私の彼氏となるはずだった人に全部、全部バレてしまった。これから私はどうすれば良いんだろう。
『俺は...もう愛美と話せるかがわからなくなった。ごめん』
彼は私とはもう関わらないのかな。さっきまでの私の高ぶった怒りは地の底へと落ちていった。なんで和也がブサイク女を守ったの?なんで私を落とすの?なんで華を傷つけただけで私とはもう話せなくなるの?
何度もこの質問が私の心へと問いかける。自分が悪い。決まったことなのに、自分はそれをわかっているのに認めようとしていない。私はなんて汚い心を持ってるんだろう。
「愛美」
「...なに」
「教室戻ろう」
「...3人は先に戻ってて」
みなみ達は先に教室に戻っていった。私は埃くさい倉庫にとどまりたくないと思って、今の時間は誰もいないだろうと思える屋上へと足を運んだ。いつも軽い足取りで歩けるのに、今は足に100グラムの重りが付いているかのように足取りが重い。5限目が始まっているから廊下には誰もいない。
静かな廊下をボトボトと進んで、階段を一段ずつ上がっていって屋上へ繋ぐドアを開ける。と同時に外の湿った熱気が私の頬を撫でる。空を見上げると雲がかかっている。どんよりとした黒い雲。吸っている空気はなんだか土の匂いがする。
「雨が降る...」
そう呟く。私は動く気力がなかったからそのまま立ち尽くした。
自分の人生を自分で沼に沈めてしまったのに、私はそれを認めようとしない。認めたいけど。という言い訳をずっと唱えている。
「あぁ、もうどうしよう」
ポツポツと雨が降り始めるとともに雷が鳴っている。屋上は危ないってわかってるけど、もう自分なんてどうでもいいと思って雨の下に私は立ち尽くす。一人で嵐の中で涙を流して、大声で泣いて、ひざまずいて。胸が痛くて苦しくて仕方がなくて胸ぐらを自分で掴んで。
もう自殺しようかなって思った時、優しい声が背後から聞こえた。
「えっと、愛美?」
「...だれ」
さっきまで全身に当たっていた雨粒がいきなり当たらなくなった。
「は、華だよ。風邪ひいちゃうから、中に戻ろ」
私は何も答えなかった。華だと知った。華とは関わりたくなかった。中に戻りたくなかったけど、腕を掴まれて引っ張られて校舎の中に連れ戻された。
「えっと、愛美。風邪ひいちゃううから、これ」
手渡されたのはジャージとタオルだった。受け取れば良いのかがわからなくてあたふたしていたら、大好きなあの声が聞こえる。とても落ち着いている声。和也だ。
「なんで...?」
「あのあと私と和也が保健室に行って話してたんだけど、あの後教室に戻ったら愛美がいないって言われて、和也と一緒に捜してたら屋上にいることがわかったんだけど」
「華が雨が降っててお前がびしょ濡れだって聞いたから、お前のジャージと保健室からタオル持ってきたんだよ」
「あ、ありがとう...」
「俺、階段の下で待ってるから、愛美が着替え終わったら呼んで」
「うん、わかった」
「...」
2人が馴れ馴れしく話しているのがまだ自分にとって棘みたいだった。黙って俯いてタオルで全身を拭く。私は酷いことをした。
なのに和也と華は私を気遣ってくれている。2人の優しさで私はジャージに着替えながら涙を一粒流した。
着替え終わって華が和也を呼ぶ。両手をポケットに入れて階段を上がる彼は真顔でこっちを見ている。和也をまっすぐ見ることができなくて私は俯いた。
「愛美、なんで屋上にいたの?風邪ひいちゃったら大変じゃん」
「風邪ひいたってどうせ誰も心配しないからいいよ」
「...愛美、教えてくれ。なんで華を傷つけた」
「ちょっと和也、話しを一気に変えすぎだって」
「いいだろ、愛美。答えろよ」
和也に責められているのはとてつもなく居心地が悪かった。態度は小さくて何かを溜めている雰囲気を出している和也の口調はいつもよりトゲトゲしていた。俯いて何も言えない私は責めているようになかった優しい声に包まれた。
「愛美、和也の質問に答えてほしいな。私もその答えが知りたいの」
「...嫉妬」
「嫉妬?」
「うん、お前と和也が馴れ馴れしく話しているのが嫌だったの。それで、お前が和也に近づかないように嫌がらせとかをして...」
「自分勝手だな」
「うん、本当に自分勝手だよね」
次々と塩分が含まれている水の粒がぽろぽろと落ちる。床に落ちたり、服に染み込んだりしている涙。背中をすってくれている華の優しさに今まで私がしたことに恥をかいた。
「和也、先に教室に戻ってて。私、愛美と話すから」
「でも、またなにかされたら俺が困る」
「大丈夫だから」
華が和也の両手を握って安心させようとしている。見つめ合っている2人の綺麗な瞳が私にとって眩しかった。安心したのか、和也は華の頭を撫でて階段を降りていった。2人の関係は、まさか...知りたいのに知りたくない。私は床に座って顔を伏せてる。
窓のすぐ側に居座っているから、外の空の雲を切り裂く稲妻が大きな音を立てて地面に落ちる。天は私に怒っている。冷たい背中に温もりを感じた。
「愛美、大丈夫だから。私、許すよ。愛美がしてきたもの全部許す」
「...とか言いながら許してないでしょ?」
華は首を横に小さく振った。そして私の手を握って小さい声で囁いた。
「嫌なことをされたことは確かだよ。でも、許さないと、なんかそれを引きずっていってしまいそうなの。だから、私は今ここで許す。だから、同じことを繰り返さないようにしてほしい」
華の言葉は、彼女が私を見つめる目と同じ真剣さを含んでいた。圧をかけられているようなかけられていないような。
「ごめんなさい...警察に言うんでしょ?頭を強く棒で叩いたんだから」
「ううん、言わない。それほど大した怪我なんてないし...たぶんね」
「ごめん」
「うん、もう大丈夫だよ」
「ごめん」
私の憎らしい口からは『ごめん』という一言しか出ない。ここに和也がいたら、『ごめんしか言えないのかよ!』って怒られていたかもしれない。はあ、とため息を吐いて窓の外を見上げる。
その瞬間稲妻がすぐ近くにある電柱に落ちて停電が起きた。同時に大きな雷の音が響いたから私は驚いて叫んでしまった。華は静かな目線を空に送っている。少し経つと雷の音が小さくなった。まだまだ音は大きいけど、さっきよりかはマシだ。
改めて華に謝ると、何かがおかしいのか、突然クスクス笑った。
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