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「なんで笑ってるの?」
「いや、愛美がずっと謝ってるから。フフ、ごめんごめん。よし、もう謝るの禁止!この件についてね!」
両手をパンッと叩いて立ち上がった華はなんだかレモン色に輝いているように見えた。これからどうするんだろうって不思議に思いながら華を見つめていると、彼女が手を差し出してきた。
彼女の手を握って立ち上がろうか迷ったが、彼女の優しい眼差しを見て、握ろうと決心した。立ち上がった。
「なにするの?」
「うーん、雨も弱まったしちょっと晴れてるから屋上出よー」
「え、でもまだ雨が」
「今小雨だよ、タオルもあるんだし、ちょっと濡れたら拭けばいい話」
そう言って華は屋上に出るためのドアを開けて飛び出した。思考が追いついていないけど、私は華を追いかけた。彼女は両手を広げてくるくると楽しそうに笑っていた。
小さくて弱い雨に打たれて、太陽の光に照らされている華はとても輝いていた。それに比べて私は、太陽の光には当たってないし、むしろアンテナの影にいる。
ー これが、私と華の違いを示しているのかな?心が汚い私は影の下に、綺麗な華は光の下に。
そう考えていると、華に腕を引っ張られた。びっくりして、『うわあっ』と声を出した。それがおかしかったのか華は大きな声で笑った。つられて私も笑った。雨はすっかり晴れて空には虹がかかっている。
さっきまで私が一人の時は大粒の雨が降っていたのに、華と一緒にいはじめたから空模様は晴れていった。私の目に映る華はまるで晴れ女のようだった。
屋上で走り回ってしばらく経った。私と華は虹の下に立ちながら話した。
「私達、5限目サボってるね」
「そうだね、怒られるかなー」
「まあ、なんとかなるでしょ」
「うん」
笑い合って信じられないくらい楽しい時間を過ごした。ふいに頭の中に一つの疑問が浮かび上がった。華と和也ってどういう関係なのか。知りたくないけど知りたい。私は3回ほど深呼吸をして華に問いかけた。
「ねえ、華。華って和也とどういう関係なの?」
「え?」
「急にごめんね。ただ、ちょっとだけ気になっちゃって」
愛想笑いをつくってみた。変な笑みになっていないか心配だった。華はちょっと間を開けてから口を開いた。
「あぁ、愛美。和也のことが好きなんだよね」
「...うん。でも、もう和也は私となんか関わらないと思うし、もう好きになっても意味ないのかなって。だけど、諦めにくいからさ。関係だけ知りたいと思って聞いたの」
「私と和也は...愛美、本当に知っちゃって大丈夫?」
私は華の目を見てコクリと頷いた。
「私と和也は、カレカノの関係だよ...」
その言葉を聞いて、『やっぱりか』と脳裏で呟いた。2人が付き合ってると思い始めたのは今日の屋上で会ったときから。なんだか和也がやけに華の心配をする。華の前でなんだか私より笑顔で話しているように見えて。
2人をずっと眺めてると、誰にも壊されることがないハートの背景があるように見えた。そこから私は和也を諦めようかと思い始めた。
でも、もう私は和也への恋愛感情を捨てられると思う。いや、捨てられる。
100パーセント。だって、私は諦めるための仕留め言葉を聞いたのだから。
ー 華と和也は付き合ってる。もう、諦めよう
「そ、そうなんだ。付き合ってるんだね。それっていつからか聞いても良い?」
「今日。昼休み、和也が倉庫に来て、後から保健室に行った時」
「保健室で?どっちから告白したの?」
「...和也」
そっか。だからなんだね。和也が私にそっけなくしているの。だからなんだね。華をとても大切にして接しているの。だからなんだね。和也が華と話している時、私より笑顔が多くて、頬をほんのりと赤く染めてるの。すべてが繋がっていった。知りたくない現実。それでも私はそれを受け入れた。私は諦めた。応援しよう。華と和也の関係を。
5限目が終わったチャイムが鳴った。私と華は階段をかけ下って教室に戻った。教室に戻ると、花乃達が私の席の周りに立って話していた。和也は友樹と翔真と廊下で話していた。谷川先生は6限目の総合の準備をしていた。華が席に座ると、花乃達がやってきた。
「あの、藤本さんごめんなさい!」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
3人共頭を下げて華に謝っている。私も改めて謝って頭を下げると華は困りながらも笑顔で接した。
「大丈夫だよ!もうそれは過去のことだし、気にしてないよ」
「許してくれますか?」
「もちろん!これからは仲良くしてくれると嬉しいな」
「いいんですか?」
「うん!だからタメ口ね!」
華の優しい対応に私達は歓声を上げた。華はクスクスと笑っていた。すると、和也が友樹と一緒にやってきた。
「あ!華と愛美じゃん!どこ行ってたの?」
「あー、ちょっと2人で大事な話があって。保健室に...」
「そういうことね!だってさ和也」
「あぁ」
和也は華を見てニッコリと微笑んだ。だがその笑みは私と目があった瞬間に消えた。やっぱり和也は私のことを嫌ったんだ。なんだか心が1万トンの重りに潰されたような感じだった。私は和也に話があると伝えて、華を連れて誰も来ないらせん状の階段に行った。
時間はまだある。S高等学校の休み時間は午後から15分休憩になる制度だから。まだ5分も経ってない。私は視界に和也と華が一緒にいるところが入らないように先頭を歩いた。階段についた。
「話ってなんだよ?」
「和也、言い方きついって」
「...」
「私、まずハッキリさせて終わらせようと思ってることがあるの」
「ん?」
いざ言おうとすると緊張というか恐怖というか。そんな気持ちで心がドキドキする。深呼吸をして落ち着いて私はすべてを終わらせた。
「私、和也のことが好き...だった」
「だった?」
「うん、私諦めたよ。だからさっき和也に伝えた想いは過去形」
「...」
「あ、告白じゃないよ!告白かもしれないけど、ただそれが言いたかっただけで2人を離そうとしないから。2人ともすごい幸せそう...だから」
「そっか、ごめんな。気持ちに応えられなくて」
「え、いいよ!全然!諦めてるから、それじゃあ!」
2人を置いて先に教室へ戻ろうとすると腕を掴まれた。振り返ると華が腕を掴んでいた。
『ありがとう、愛美には良い出会いがあるからね』そう言って腕を離した華。私は頷いて教室へ戻っていった。
一人で呟いた。ブツブツブツブツと呟いた。
「大丈夫、これでやり直せるはず、大丈夫、これで全部を終えたから。大丈夫、大丈夫」
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