41人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「好きだからだよ!」
「え...?」
「俺は、華が好きだから...華が好きだから傷ついてたり苦しんでたりしてるところを見るのが嫌なんだよ。じゃあ見るなって感じだけど、見ちゃうんだ」
「す...きだから?」
「あぁ、だから...付き合ってほしいです」
「なんで敬語なの。そもそもなんで私を?」
「しっかりしてて、リスペクト的なことされなくて優しくて、可愛くて。俺の目に映る華は透き通ってて、強くて、前を向いている。それに惹かれていったんだ」
「私、そんな風に見えてたんだ」
あのときの私の顔は戸惑いと驚きが入り混じった表情をして和也を見つめていた思う。和也の言葉が信じられないような、でも心の奥底ではとても嬉しいと感じる気持ちが込み上がっていた。
「そうだよ。華はいつも周りを気遣って、自分のことを後回しにしている。そんな華を見て、俺はいつも力になりたいって思ってたんだ。でも、ただの友達としてじゃなくて...こう、もっと特別な存在として華を支えたいって思ったんだ」
和也の真剣な瞳に、私は言葉を失った。今までずっと、私は和也に片思いをしていたと思ってた。でも、彼の今の気持ちを知った今、なんだか。
好意を寄せていたのは私だけじゃないんだって。なんだか嬉しいし安心した。
「でも...私、そんなに強くない。和也が思ってるほど、私は...」
「それでいいんだよ。弱い部分があったって、それが人間なんだし、俺はそんな華も含めて好きなんだ。だから、一緒にいるときは、無理をして強がらなくて良いんだ。俺がいるから」
和也の言葉に、私の心は少しずつ溶けていった気がした。なんだか温かい気持ちが心を満たして、涙が溢れそうになるのを感じながら、私はゆっくりと頷いた。
「...ありがとう。こんな私でよければ、これからも一緒にいてくれる?」
「もちろん。俺も華と一緒に、これからの先を歩みたいんだ。色々な壁があるかもしれない。だけどそれを2人で越えたい」
和也の手がソッと私の手に触れる時、私と和也の間にあった見えない壁が音もなく崩れ落ちた。
「これからも、よろしくね」「こちらこそ。よろしくね、華」
彼はそう言って微笑んだ。その笑顔が私にとって何よりも幸せな光だった。
*
和也が彼氏となった今。愛美と仲直りした今。学校で私へのいじめがなくなった今。高校3年生として、高校最後の年を過ごしている今。私は今最高の学校生活を送っている。
母さんからも父からも時遥さんからも、なんだか顔色がすごい良くなったって、嬉しいことがあったのかって聞かれるぐらい。
中学の頃と同じ感じに、ポニーテールは高い位置で、顔を隠さないで、背筋を伸ばして学校生活を送っている。自分に自信を持てるようになった。
「きゃー!和也様の横にいるの彼女さんなのかな?めっちゃ綺麗、可愛い!」
「同じクラスの藤本 華なんだって。めっちゃ可愛いよね」
「まじそれ」
私と和也が付き合っているということは、すぐに学校全体に広がった。噂されるのはちょっと気恥ずかしいけど、和也はなんだか慣れているっぽい。
ー さすが、学校で人気者のイケメンさんだな
ー そういえば、花乃達はどうしたんだろう
愛美に聞くと、花乃達3人は他の子達とも仲良くなっていってるらしい。今まで愛美としか過ごしていなかったから、他の子達と交流を深めるのだとか。愛美はそれは全然平気らしい。最後の高校生活だからって。
夏が終わる少し前。私が教室で空を眺めている時、和也が後ろからハグをした。びっくりして、わっと声を上げた。彼が期待していた反応だったのか、彼は笑顔でガッツポーズをしてまたハグをしてきた。すると後ろから聞き慣れている声の持ち主2人が話しかけてきた。
「おいおい、お前ら2人ともー。ここでイチャつくなって」
「まあ、いいんじゃない?2人ともラブラブだし」
「そうだな!」
友樹と愛美がからかって笑っている。それを和也が顔を赤く染めて、ほっぺを膨らませて友樹の頭をバシッと叩いた。友樹が両手で頭を抱えて笑って和也を見てる。それが面白くてつい愛美といっしょに笑ってしまった。
「いってぇ!なんで叩くんだよ!」
「からかうなよ!俺と華の雰囲気ぶち壊すなー」
「だからって叩く必要ないだろー?」
「あー、別にいいっしょ!痛かったらごめんな」
「絶対反省してないだろ」
「プッ、はははは」
「おい何が面白いんだよ!」
「いやいや、2人とも喧嘩の原因がしょうもないなって、ね?華」
「うん」
2人で笑っていたら、和也と友樹も一緒に笑い出した。今の時間がすごく楽しくて楽しくてたまらなかった。すると、愛美から提案が出された。
「ねえ、夏だしさ、プールに行かない?皆で」
「それマジでナイスアイディアじゃん!」
友樹が手を叩いて愛美に指を指す。興奮状態の友樹に、和也が呆れて窓際に立っていた。
ー どうしたんだろう
友樹と愛美がプールの件で盛り上がっている時、私はどう話に関われば良いのかがわからなかったから、和也の側に立つことにした。
彼はプールがある練を眺めている。どうしてだろう。5秒ほど考えて、私は和也に聞いた。
「プール、行きたいの?」
「え、あぁ。まあね、青春って感じかなって」
「そっかー。じゃあ皆で行こうよ!ダブルデートみたいな?」
「あー、確かに。友樹と愛美付き合ってるもんな」
「うんうん、友樹から愛美に告白するのびっくりしたし、なんだか祝福したくて仕方なかったよ」
愛美が和也を諦めてから、恋愛なんて諦めていくつもりだったらしい。だけど、愛美が和也を諦めたと聞いた友樹は愛美に告白。
愛美はびっくりしたらしいけど、告白を受け止めたらしい。今では二人は仲良くて、ほとんど一緒にいることが多いんだとか。
「いじめられてたのに、祝福なんてな。優しすぎじゃないか?」
「うーん、そうかな?」
「まあ、でも。華がありのままの姿で生活しているの見ると、本当の華を接しているって思って俺は幸せだよ」
「優しいのと関係ある?」
「さあな」
和也と笑っていると、後ろから肩を組まれた。友樹だった。愛美は横からこっちを見て笑っていた。
「それで、二人はプール行くの?」
「あ、どうする?」
「華が行くなら俺も行く」
「じゃあ、華和カップル行きまーす」
私がいきなり『華和カップル』と呼んだことに和也はすごく困惑した顔をしていた。華の華、和也の和で適当に作ったもの。
友樹と愛美はそれを聞いて「可愛い」とハモった。
愛美にどこのプールに行くか聞いた。
「C市のウィズダム・メガプールセンターだよ」
ウィズダム・メガプールセンター。久しぶりに聞いた名前。前回行ったのはいつだったっけ。
6歳のころだった気がする。父と母さんの仕事が忙しくなってきてから行ってなかった気がする。でも、久しぶりにウィズダム・メガプールセンターに行けること。私は心を踊らせた。
行く日付が決まった。次の土曜日。ウィズダム・メガプールセンターが開くのは午前10時から。
電車で片道30分だから、集合時間は午前9時にした。一応のために30分余裕を持って行動をすることにした。
ー 土曜日が楽しみだなぁ、早く土曜日にならないかなぁ
土曜日になるまであと数日。その日を心待ちにして日々を過ごした。
土曜日のために新しい水着を買った。半袖シャツみたいなやつにラッシュガードを上から着て、下はスカートみたいなのを買った。
最初のコメントを投稿しよう!