21章

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「男子と分かれたけどさ、どこ行く?」 「んー、ひたすらウォータースライダー!」 「ウォータースライダー乗りまくるか!!よし、行こう!」 華は私の腕を引っ張って、慎重に歩いてスライダーの方へ向かった。ウキウキしている私の目には、同じようにウキウキしている華の背中が映っている。そのときの彼女の背中はなんだか見覚えがあるような気がした。 今まで華のウキウキした背中は見たこと無いはず。なぜなら、高校入学と同時に私は彼女を苦しませていたから。それでもなぜか、彼女の今の背中は懐かしいような気がする。 でも、記憶と勘が曖昧だから何もわからない。 「...み?愛美ー!」 華に何度も名前を呼ばれていたことに気づかなかった。どうやらボーっとしていたらしい。 「もー、愛美ったら。ついたよ!」 スライダーのゴールは思っていたより細くて小さかった。こんなのショボいスライダーだろうと思ってた。看板を見ると、『スケアリー・フォール』と書いてある。 ー スケアリー・フォール。怖い?恐ろしい?落ち方? 看板を見ると叫んでいる人の写真が映っていた。お化けでも出てくるのだろうか。 「なにこれ?」 「これはね、今年できたばかりのスライダーなんだって!昔こんなのなかったよ」 「そうなんだ!これ...どれぐらい高いの?」 華は上を指さしてた。指の先をたどって上を見上げると、冷や汗をかいた気がした。高すぎる。街にある塔よりかは低いかもしれないけど、思っていたより高かった。 高くて階段を登るのが大変になるからか、ちょっとしたエレベーターがついていた。スライダー自体はなんらかの建物に繋がっていて、安全が確保されている。 「うーん、高さはわかんない!どっかに書いてあるんじゃない?」 スケアリー・フォールについての看板があったから読もうとした。その時に華が叫びだした。 「どうしたの」 「虫がいただけ...ていうか早く行こーよ。人がどんどん上に上がってっちゃうよ。滑れなくなっちゃう!」 周りを見ると、朝来たときより人が増えてる気がする。華は私の腕を掴んでエレベーターに乗り込んだ。 「いきなりだねぇ」 「だって、思いっきり楽しみたいじゃん?」 ワクワクしてウキウキして、膝を曲げたり伸ばしたりして動いてる華がそう言うと、エレベーターがスライダーの滑り口のところについた。人だかりができていて、何組かの人たちが順番を待っていた。 私はエレベーターの横にある席に座って待つことにした。個室のように、だけどとても狭くて。長い宝箱を縦に置いたような感じだった。他の人が中に立つと、ドアのようなものが閉まって、スタッフさんの合図で滑る人が落ちていった。 「これってあれじゃん!」 「あれって?」 「ほら、たまにネットで見るスライダーで、立ってる土台みたいなのがなくなってそのまま落ちる系のやつ!」 「うわー、怖いじゃん」 他の人が次々落ちていって、いよいよ私達の出番がやってきた。私の前に並んでいた華が先に滑ることになっている。華はスライダー滑り口の中に立って、スタッフさんが示すポーズをとった。 「心の準備はできてますかー?できていなくても行きますよ!スケアリー・フォールまで?3・2・1いってらっしゃーい!」 スタッフさんの掛け声で真下に落ちた華は、大きな叫び声を上げて姿を消した。かすかに『キャー』と叫ぶ華の声がして、次は私が滑る番だということを実感した。乗る前にスタッフさんに、どのくらいの角度で落ちていくか聞いてみた。 「このまま真下に落ちます。90度滑り台みたいな感じです。でも、角度が変わるときは緩やかなので、安心してください」 『このまま真下に落ちます』『90度』 二つのキーワードが頭の周りを飛び回っている。緊張と恐怖で脚がガクガクと震えてる。スタッフさんの掛け声が聞こえてきた。このままじゃ落ちる。最悪の場合死ぬかもしれない。 「...行きますよ!スケアリー・フォールまで?」 「ちょっと待ってください!!やっぱり降ります!!」 「...2・1」 「降ります降ります!」 「いってらっしゃーい!」 「待って降りるってば...!!!」 自分の声がスタッフさんに全く聞こえなかったのか、私は一直線に落ちていった。 急降下していて、速度も早くて、私の頭の中は真っ白になった。 『キャぁぁぁぁぁぁー!』 スライダーの中、下手したらスライダーの外でも私の叫び声が聞こえている気がする。恥ずかしいはずなのに恥ずかしいなんて思える暇なんて無い。 怖くて目を瞑っていたら、スライダーのゴール地点に着いた。 「うわぁ、怖かったぁ」 「愛美!おかえり!どうだった?」 「怖かったぁ」 「愛美の叫び声めちゃめちゃ聞こえたよ」 華は笑って歩きだした。次どこ行くかを話しながら歩いていたら星の形をした流れるプールが目に入った。昔溺れたときの記憶がかすかにだけど見えてくる。あの時、誰が私を。 私は華に流れるプールに入ろうと誘った。溺れたときはまだ背が小さくて、プールの底に脚をつけることができなかった。でも今は指定身長を越えているから心配しないで入れる。そう思った。華は近くにあった浮き輪を使うか聞いてきた。 「うーん、どうしよう。華はどう思う?」 「私は、これから人も多くなりそうだし、浮き輪使いたいって思う人もいるかもしれないから、使わなくても良いと思うよ」 「そうだね」 そう言って、私と華はプールに入水した。普通の流れるプールとは違って、このプールは流れがまあまあ早い。 ー 星の形をしているからなのかな。でも、角が多いから逆に遅くなるんじゃないのかな? 「愛美どうしたの?眉間にシワ寄せてさ」 クスクスと笑いながら華が言った。私はこのプールの構造のことをそんなに真剣に考えていたのだろうか。 「なにか思い出した?」 「え?」 「あ、いや、なんか急にハッとした顔をしてたからさ。違ってたらごめんだけど」 私は曖昧な記憶を口にしようか迷っている。こんな曖昧な記憶を華に言ってしまったら、私が華にしたみたいに馬鹿にされるのか。華はそんな子じゃないってことは知っている。でも、なんだか復讐されるような感じがする。私の日頃の行いが悪かったからこんな勘が生まれるだけなのか。 私は10秒ぐらい黙り込んだ。
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