わたしたちに春は来るのか...

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木下 和也。それが俺の名前。高校に入学してから天野 愛美って子ととある女の子と一緒のクラスだ。愛美の噂はよく聞く。彼女はまあ可愛いけど、裏でいじめとかしてるってよく聞く。そういう愛美が俺にしつこく絡んでくる。 「和也!おはよう!今日も昼休みサッカーするの?それともバスケ?どっち?」彼女は目を輝かせながら俺に話しかけてきた。 「き、今日はグルメンとサッカーするけど、なんで」俺は窓のあちら側、外を眺めて言った。「なんでって、そりゃ見に行くからに決まってるでしょー」「いや、見に来なくてもいいんだけど」俺は呆れたように言ってみた。それが嫌だったのか、愛美は上目遣いをしてきて甘えてきた。これがぶりっ子系女子ってやつか。俺はぶりっ子系が嫌いだ。相手によって態度変えるとかあまりにも謎すぎるし、周りからの視線も痛い。ため息をついたとき、友人の友樹(ともき)が呼んだから愛美から一旦離れることができた。 ー 友樹マジでナイス、助かったぜ 「和也、三時間目理科らしいんやけどさ、ノート最後見してくんね?」「ったく、仕方ねえな。お前も自分でノート取れよ」俺は友樹をからかいながら言った。友樹も笑顔で笑ってたから良かった。友樹とじゃれ合っていると、グルメンの友人が廊下で待っているのに気づいた。友樹と一緒にグルメンの方へ向かうと、周りからかっこいい!とか王子級じゃない!?と言う女子の声が聞こえる。 中にも俺の名前を呼んでいる女子だって。 「和也、今日昼休み…」「サッカーだろ、言われなくてもわかってるよ」笑いながら言った。「ていうか和也はモテモテだな!彼女選ばんくていいんか」友樹が俺の背中を叩きながら言ってくる。「ああ、俺そういうの興味ないからな。好きな人もいねえし。」「気になる人は。いるだろそれぐらい、もう高三だぞ」グルメンの一人が言ってきた。 ー 気になる人か... 「気になる人なら一応いるけど、なんかその子に避けられてる気がするんだよね」俺は周りにいる女子に聞こえないように小声で言った。気になる子...気になる子... その子は俺が入学してきてからずっと一緒のクラスになってる子だ。一年生のときも二年のときも。愛美とずっと一緒だけど、彼女はない。よく周りから相性良さそうと言われるけど、そんなことないって自分でもわかる。わからないのは愛美、そっちの方だ。俺が気になっているのはもう一人の子。名前は今でもわからない。 特徴は、いつも静かであまり目立とうとしない。クラスからの雑用は反抗もせずにしっかりとやり遂げる。一番気になるのは、なんで彼女は周りの女子に嫌がらせをされているのかだ。 俺が自分で考えても答えはわかるはずがない。彼女に聞いてみないと。でもこの三年間、俺は彼女と一度も話したことがない。話しかけても無視されるからだ。 ー 今日話しかけてみるか... 今日話しかけてみせる。いや、話しかけないと。そう決めた俺は気づいたら何度も名前を呼ばれていたことに気づいた。 「...たさん、木下さん!」「あ、はい!」俺はとっさのことに起立してしまった。国語の授業中だった。「あれ、さっきまで休み時間だったんじゃないんですか」俺は何も考えずに呟いてしまった。「なに言ってるんですか。休み時間からはもうとっくに三十分も過ぎているんですよ。しっかりしてください」先生は少し呆れたように言った。「すみません」クラスの男子がクスクスと笑っていた。 「それじゃあ、木下さん。百二十九ページの六行目から音読お願いします」そう言われて、俺は音読を続けた。その後からはなにもなかった。 昼休みになり、俺はグルメンと校庭に出てサッカーをしに行った。勿論、俺らのサッカーを見学している大半は女子で、中でも一番目立ってたのが愛美だった。 「和也〜!頑張れ〜!好き〜!」そう叫んでくる。好きって言われるのは他の子からも言われるから慣れているけど、愛美は感情というか気持ちが重すぎて好きって言われてもこちらも困ってしまう。友樹が俺にボールをパスしてきた。敵チームの守備は俺を囲むように走り、俺はボールをパスできなかった。見事にボールを取られて点を入れられる。 ー 今日はうまく行かないな、最悪だ そう思った瞬間予鈴のチャイムが鳴った。戻ろうぜという声がチャイムの音でかき消されてった。汗まみれな俺は息を切らしながら歩く。 「和也!はい、水筒!」愛美だった。愛美は俺の水筒を俺に渡してきた。ありがとうとだけ返して教室に戻ろうとすると、愛美は俺の袖を掴んできた。 「一緒に教室戻ろうよ」上目遣いで言ってきた愛美、俺は何も言えなかった。それを見たグルメンのもう一人、翔真(しょうま)が近づいてきた。「おっと?できちゃった系かな」からかってきた翔真。俺は愛美の腕を振り払い、翔真を追いかけた。その時背後からなにか切ないような恨みがあるような視線を感じたがあまり気にしないようにした。 終学活のあと、クラスの男子と女子はすぐに下校した。みんなは帰りたくて仕方ないのかなと思う。愛美も俺に「じゃね」と言って他の女子とどこかに行った。 トイレに行って用を済ませた後、教室には誰もいないと思っていたが一人だけ残っていた。彼女は日直が消し忘れた黒板を消していた。 ー あの子、確か... 俺は恐る恐る彼女に近づき、声をかけた。 「あの、掃除中すまないけどちょっと話していい?」急に話しかけてしまったからなのか、彼女はびっくりしたように振り返った。振り返ったとき彼女の髪はふんわりしていた気がした。けれど顔ははっきりと見えない。どういう感情なのかが気になる。彼女はなにも言わずにうつむいて、再び掃除を始めた。 ー なんで無視するんだろう。 疑問に思いながらも俺は彼女へ話しかけたいという気持ちが強かったのか、俺は彼女の横に立って掃除を手伝った。 「君、名前なに?今更だけど話しかけても無視してくるから今まで聞けなくて」彼女はまた無視した。流石にもう無視されるのは勘弁だ。「今回は無視させないよ?」「木下さんとはあまり関わりたくない。名前は言うつもりないです」彼女の発言に俺は耳を疑った。 ー 俺と関わりたくない...え、俺なんかしたかな 俺は内心焦っていた。だけどこのチャンスは逃しちゃいけない。俺は彼女の腕を掴んで、真面目に言った。「言うまで帰らないぞ?ほら、早く教えてよ。」彼女の顔が一瞬見えた。怯えているような、嫌がっているような。彼女の瞳は揺れていたことは間違いない。セクハラ、パワハラでもしているのかと考えてしまうと手に力が入らなくなった。なんでもないと言おうとしたとき、彼女の口が開いた。 「...名前は、藤本 華です。」藤本 華...これが彼女の名前か。可愛いって思った。 「藤本 華か、可愛い名前じゃん」微笑みながらそう言うと華は口をまた開いた。 「あの、名前を教えたので腕を離してください。」彼女はまたうつむいた。俺は少し驚いた。「あぁ。ごめんごめん。それじゃ、またな」腕を離してあげた。急いでそうに華は教室を出ていった。 ー 俺嫌がられてたかな? そう思ったとき、廊下から愛美の声がした。なにを話しているのかが気になって、バレないように近くに行くと、愛美が華に向かって怒っているかのように話しているのが聞こえた。「うわ、ブサイクちゃんじゃん。君の汚い菌が私につくから触らないでくれる?」「ごめんなさい、、、」 ー ごめんなさいって、なんで華は愛美に向かって謝ってるのかな そう疑問に思いながら俺は話をよく聞いてみた。 「なんて?聞こえなかったんですけど」「あ、ごめんなさい!」華はそう言い、廊下を走り去っていった。突然のことにびっくりしてしまった。なんで華は愛美に向かって謝っているのか。なんで愛美は華に向かって怒っているのか。華が少し心配になってしまった。 ー 追いかけて話聞かないと。 そう思い荷物を持って教室を抜け出した。その瞬間愛美が俺の名前を呼んだ気がした。「一緒に帰ろうよ!」と俺に向かって言ったと思う。でも俺はそれを無視して昇降口に向かって、華を追いかけるように走る。廊下を走るな!って書いてあるポスターを見かけるが、そのまま走ってしまう俺を見かけた先生は「廊下を走るんじゃない!走ったところからやり直し!」と怒鳴った。無視するとめんどくさいことになりそうだと思ったから、言われた通りやり直した。先生を通りすぎて、その後から小走りで昇降口へと向かった。 ー 華もう帰ったかな、急がないとな すると、昇降口の方からなにか重いものが落ちて小さいものが散らばる音がした。恐る恐る近づいてみると何かを拾っている華がいた。光が反射してその何かが光って見えた。華の手をみると、なにか先が尖っているものを拾っている動きが見える。そして俺は気づいた。華が拾っているのは画鋲ということに。画鋲を拾い終わったのか、とっさにそれをゴミ箱に捨てる華。一人だし一緒に帰ってみようかな。「華!まだいたの?一緒に帰ろうぜ!」大声で言った。華は一度振り返ったが、何も言わずに学校を抜け出していった。不思議そうだなと思う気持ちと、避けられているのかなと思う不安な気持ちが混ざってて表現できない感情が生まれた。変な感じ。俺はなんで避けられているのか。なんで無視されるのか。 どれだけ考えてもわからない。 ー やっぱり本人に聞かないといけないのか。 靴を取って履こうとしたら後ろから愛美がとびついてきた。 「和也!なんで教室の前で無視したのー?酷いよ。もしかして和也、愛美のこと嫌いなの?」「...嫌いじゃないけど、無視したのは急いでたから。」そっけなく言ってみた。すると愛美は顔をしかめて俺を責めるように訪ねてきた。 「まさか、あの藤本ってやつを追いかけてたんじゃないでしょうね」俺はこの一言でなにかを察知した。なんなのかはわかんない。正直に話してしまうとめんどくさくなるのに気づいたから嘘をついた。「なんで藤本を追いかけるの。用事があるからだよ」「ええ、そうかなー。藤本が走り去った瞬間和也が教室を飛び出したからさ。まあ、あの子を追いかけてないならいいや」「いいってどういうことだよ」「和也は私の近い将来のか・れ・しさんなの。それぐらいわかるでしょ、美男美女で相性抜群なんだから!」愛美の近い未来の彼氏。それぐらいわかるでしょってわかんねえよ、どこが相性いいのかもさっぱりわからない。とりあえずこの状況はめんどくさいからどうにかして愛美から離れないといけない。「冗談言うなよ。とりあえず、今日は親に早く帰るように言われてるから。今日は一人で帰るわ」 「ああ、わかった。また今度二人きりでロマンチックな雰囲気で帰ろうねー」愛美が頬を火傷したかのように真っ赤にして言ってきた。「いつかな、そんじゃ」俺はそう言い、走って校舎から、校門から出た。そのまま走り続けると同じ学校の子が道端でしゃがんでいるのが見えた。何してるんだろう。建物の影に隠れてよく見ると、黒猫と話している華が目に映り込んだ。華から俺までの距離は数十メートル離れているから、なんのこと話しているのかわからない。ずっと見つめていると華は立ち上がってこっちを振り向いて走っていった。こっちを見てきたからバレたかもしれない。そう思ったら、ズボンのポケットでスマホが鳴った。通知を見ると母からだった。「あなたは今どこにいるの?早く帰ってきなさい、あなたの好きなハンバーグ食べたいならね」そう書かれてあった。ハンバーグは俺の大好物。食べたいな。そう思って俺はダッシュで家に向かった。「ただいま」荷物を部屋のベッドに放り投げてすぐに着替えた。台所に向かったときには家族みんなが食卓を囲んで俺を待ってた。いただきますの合図で食べ始めて俺は五分ぐらいで食べ終わった。 「あなたいつもより早いわね」「ああ、宿題しないとだから。あと、風呂」俺は食器を片付けて風呂に入った。「藤本華、俺が気になる人。明日また話さないとな」宿題を済ませようと必死に頑張って問題を解いた。数学に時間をかけすぎて、寝ようと思ったときにはもう十一時。明日は四時に起床。もう寝よう。そう思って目を閉じ、夢の世界へ俺は向かった。
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