わたしたちに春は来るのか...

8/19
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
高校に入学したばかりで教室に入るときにはみんなにどう思われるか心配だった。教室に入って明るく面白い感じで「おはよう!」と大声で言うと、教室にいたみんなは私を見て呟いた。「あの子って隣町の中学校でモテまくるって有名な天野愛美じゃない?」「ほんとだ、やっぱり可愛いなあ」「仲良くなりたいなあ」ってね。聞こえないフリしているけど、丸聞こえ。はじめましての人に認知されているって思うと、喜びを隠しきれなくなる。バッグを黒板に書いてある自分の席の横にかけて、周りの女子に声をかけてみた。「おはよう、はじめまして!」「おはよう、愛美さんだよね」「そうだよ、よく知ってるね」「うん、中学の頃よく愛美さんの事耳にすることが多かったから」 ー その言葉待ってましたあー!え待てよ、こんなに認知されてるってことは私有名人だよね。こんな嬉しいことある? 他の女子たちとあっという間に仲良くなった。私の中学時代の話で盛り上がってるとき、同じクラスだろう女の子が「おはよう」と言ってきた。その子はちょっと可愛かった。気に食わなかった。だから私はその子が自分に自信をなくすような言葉を投げかけると決めた。周りの女子だって私の考えに賛成してた。 ー 私以外に可愛い女子はいらないの、私は高校時代でもモテまくるの! 私はその声をかけてきた女の子のそばに向かってこう言った。 「あんたって、ブサイクじゃん。私達みたいに可愛い子たちに気安く喋りかけないでね。気持ち悪いから」とそのまま言うとそんなに傷つかないだろう。だから私はちょっとからかっているように笑いながら言った。もちろん彼女は驚いたような顔をしてた。なにか言いたそうにしてたから私は彼女を睨みながら去っていった。 「はあ、スッキリスッキリ」「ね、あの子なんか嫌だ」「このクラス、私以外可愛い子はいらないって事を知ってほしいわ」「まじ、愛美さんの言う通り」みんな私と同感してたから話はスムーズに進んだ。正直悪いことをしているというのは知ってる。でも、私は負けないようになんでもするって決めている。「ていうか、名前はなんていうの?」私は私を認知してくれた新しい友達の女子に聞いた。「名前は高畑 花乃(たかはた かの)っていうよ。正直愛美さんの名前のほうが魅力的だと思ってる。ほんと羨ましいよ」「かのっていい名前じゃん、あとすごい今更だけど名前の後にさんはつけなくていいよ。呼び捨てで大丈夫」「私は源 凪(みなもと なぎ)。苗字と名前両方一文字がギャップかな」なぎ、男の子も女の子も持っても良い名前だ。「佐藤 みなみって名前。よろしく」「花乃、凪、みなみ。三人ともいい名前持ってるじゃん」私はその三人のことを気に入った。彼女たちも私に合わせてくれるからこっちも助かる。中学時代と生活が似てていいなとは思うけど、新しい出会いがないのが寂しかった。しばらく私と三人で楽しく話してると、花乃がなにかに反応した。「ねえ待って、あの人ってめっちゃイケメンで有名な 木下 和也くんだよね。」「ほんとだ、えこのクラスに美男美女いるじゃん。」「最強すぎじゃん」三人が話してた。どれどれと花乃が指さしてる方を見ると、イケメンがいた。私は今まで会ってきた中でも一番だと思った。あまりにもカッコよすぎてじーっと見つめていると、目があってしまった。はっと思って目をそらしたが、和也は私達のほうに向かってきた。「おはよ」と声をかけてきて私は胸を打たれたような感じがした。「お、おはよ」私は恥ずかしながらそう返した。「君が愛美って子か、一度会ってみたかったんだよね」「そうなの、なんで?」「なんでって、前の学校で話は聞いたりしてたからどういう子かなーって気になって」「そうなんだ」私は徐々に声がかすれていった。彼が私を眺めていると、隣のクラスの男子が和也を呼ぶ声がした。もちろん彼は、何も言わずに他の男子達の元へ行った。私がほっとしたようにしたとき、凪が私の顔を覗いてニヤけている。 「おっとおっと?ここ、できちゃう系?」「え、え?なんでそう思うの」花乃、凪、みなみ三人はお互いの顔を見合わせていた。何何って気になって仕方ない私。 「愛美、顔真っ赤だよー。声もかすれてったし」「もしかして、和也くんが好きなんだとか」花乃が言って三人は叫び始めた。最初は三人が言っていることを理解できなかったけど、徐々に理解するたびに顔が熱くなってくる感覚が大きくなった。私は和也が好きなのかな。今までこんなイケメンな人と会ったことないし、ドキドキが止まらない。 「私、多分ね。和也が好きなのかも」少し照れたようにボソッと呟いた。「いいじゃん、美男美女がカップルになったら。めでたいめでたい!」凪が言うと予鈴がなってみんな席についた。和也の席は前から四番目の窓側。私は一番後ろ、六番目の窓側から三列目だ。和也の二個斜め上の席だから彼の姿が見える。当たりの席を引いた気がした。一方で、あのブサイクな女の子は前から二番目の廊下側の壁の真横だ。日当たりが悪いから影がある。彼女にピッタリな空間だと私は思う。 授業中、朝の日差しが教室に差し込むとき。穏やかな春風が和也に当たる。風のせいで和也の髪がふんわりと揺れ動く。この光景が私にとってたまらない。 ー かっこいいなあ。 そう思って彼を眺めていると私の視線を感じたのか、こっちを振り返った。目を逸らそうとしたけど、あまりのかっこよさに目が離せなくなり彼と目があった。 やばいと焦りながら目を逸らそうとしたとき、彼は驚いた後にニコッと微笑んだ。 私の顔はどんどん熱くなってきている。このままじゃ熱があると勘違いされると思い、顔を教科書で隠した。内心とても焦っているとチャイムが鳴った。タイミングがバッチリだ。凪と花乃、みなみに気づかれる前に走ってトイレに行った。 「目があった、目があったよね。やばいやばい、心臓が。鼓動が早すぎる。落ち着け、落ち着け愛美。深呼吸しないとね」そう自分に何回も言い聞かせながら落ち着く。私が落ち着いて教室に戻ると和也がそのブサイクな子に話しかけていたのが見えた。嫌な感じ。彼女を見つめると、彼女は和也を無視するようになった。和也は何度も彼女に話しかけるが無視されるから嫌われているのかと不安になっているのがわかる。そう顔に書いてあるから。 ー よし、話しかけよっと 「和也!やほ」「おお、愛美。やほ、どしたの」「別に、見かけたから話しかけただけ。」「そうか」「うん、やっぱりいつ見ても和也はほんとイケメン。かっこいいなあ」そう言うと彼は少し困った顔をした。「ああ、ありがとう」「もちろん、じゃね」そう言って去っていく。私はその日から和也に頻繁に話しかけるようになってきた。気づいたらお互い呼び捨てになってるし、周りからもお似合いだって言われるからそろそろそっちからお付き合いを求める告白が来るだろうと毎日待ってた。来る日も来る日も待ってた。そんな毎日が続いて、二年後。私達は高校三年生になった。まだ告白されていないけど、卒業式近くになるとするでしょう。朝登校して、教室に入ると和也がいた。私は少し笑顔になった。自分でもわかる。荷物を席の横にかけて私は和也に話しかけた。「和也!おはよう!今日も昼休みサッカーするの?それともバスケ?どっち?」私は目を輝かせた。「今日はグルメンとサッカーするけど、なんで」彼は窓のあちら側、外を眺めて言った。「なんでって、そりゃ見に行くからに決まってるでしょー」「いや、見に来なくてもいいんだけど」彼は呆れたように言った。 ー 今日の和也なんかそっけないな、よし。上目遣いだ! そう思い私は上目遣いで和也をみた。でも彼はもっと嫌な顔をしてため息をついた。すると和也を呼ぶ声がした。「和也、三時間目理科らしいんやけどさ、ノート最後見してくんね?」「ったく、仕方ねえな。お前も自分でノート取れよ」彼は友人の友樹をからかいながら言って私の前から去っていった。廊下を見ると和也のグルメンの友達が待っているのに気づいた。和也が友樹と一緒にグルメンの方へ向かうと、周りからかっこいい!とか王子級じゃない!?と言う女子の声が聞こえる。中にも和也の名前を呼んでいる女子もいた。私はそれが気に入らなかった。和也は私のものっていうことになっているはずだから。教室を見回しても、凪、花乃、みなみはまだ来てなかった。暇で仕方がなかったから私は和也たちの会話を聞くことにした。「和也、今日昼休み…」「サッカーだろ、言われなくてもわかってるよ」「ていうか和也はモテモテだな!彼女選ばんくていいんか」友樹が和也の背中を叩きながら言う。「ああ、俺そういうの興味ないからな。好きな人もいねえし。」「気になる人は。いるだろそれぐらい、もう高三だぞ」グルメンの一人が言ってた。 ー 気になる人、和也いるかな。私でいいな。 「気になる人なら一応いるけど、なんかその子に避けられてる気がするんだよね」彼は周りにいる女子に聞こえないように小声で言ってたように見えたが、私には丸聞こえだった。 「避けられているってどういうことよ、私はベッタリ系だけどな。」そう呟いた瞬間後ろから凪が脅かしてきた。「わっ!おはよ!」「うわ、びっくりした。もうやめてよ」私は耳をスリスリしながら言った。ごめんごめんと笑う凪をみて和也の発言のことは気にしないようになった。国語の授業。音読をするが何度先生が和也の名前を呼んでも和也は応答もなんにもしなかった。「...たさん、木下さん!」「あ、はい!」和也はとっさのことに起立してしまった。「あれ、さっきまで休み時間だったんじゃないんですか」彼は何も考えずに呟いているようだ。「なに言ってるんですか。休み時間からはもうとっくに三十分も過ぎているんですよ。しっかりしてください」先生は少し呆れたように言った。「すみません」クラスの男子がクスクスと笑っていた。 「それじゃあ、木下さん。百二十九ページの六行目から音読お願いします」そう言われて、彼は音読を続けた。その後からは特になにもなかった。 昼休みになって私は和也の水筒を持ってサッカーを見学した。彼らのサッカーを見学している大半は女子で私は誰よりも大きな声で和也へのメッセージを叫ぶ。「和也〜!頑張れ〜!好き〜!」ってね。ゲームはどんどん進んで、誰かが和也にボールをパスすると、和也は敵らしきチームに囲まれているのが見えた。やばいと思って必死にアドバイスしてたが、聞こえてなかったのか彼はなにもできずにいた。ボールを奪われ、点を入れられた。「ああ、負けちゃった」しょんぼりとしたように私はボソッと呟く。と同時に予鈴のチャイムが鳴った。 和也を探していると、汗まみれの彼が息を切らしながら歩く姿が見えた。喜びで私は全力疾走で追いかけて和也に言った。「和也!はい、水筒!」私は彼に水筒を渡した。ありがとうとだけ返して教室に戻ろうとする彼を見て、少し悲しかった。その悲しさを振り払うために私は彼の袖を掴んだ。 「一緒に教室戻ろうよ」上目遣いで言った私を見た彼は何も言わなかった。 それを見てた和也のグルメンの一人が近づいてきた。「おっと?できちゃった系かい?」とその子がからかってくる。正直そう言われると私は嬉しい。でも和也はそうじゃなさそう。彼は私の腕を振り払い、その子を追いかけた。取り残された気持ちでいっぱいな私は和也の走り去る背中をみることしかできなかった。でも気にすると時間が無駄だから教室に戻ることにした。教室に戻るための階段は二つある。一つは校舎の真ん中にある大きな中央階段。もう一つは隅っこにある少し薄暗いらせん状の階段だ。夕日が綺麗に刺すとお城の中の階段のような雰囲気になる。普段は薄暗いから生徒や教師はその階段を余り使うことがない。だから少し埃が多い。「あまり掃除されていないのかな」独り言を言いながら螺旋状の階段を上がる。 終学活が終わって、クラスの男子と女子はすぐに下校した。私は彼に「じゃね」と言って凪、花乃、みなみと教室を出た。そのまま昇降口へ四人で向かったが、忘れ物をしたことに気づいて三人に先に帰っててとだけ言って教室に向かった。夕日が綺麗に差し込む時間だから遠回りになるけどらせん状の階段を使った。 ー やっぱり綺麗だな、埃臭いけど。 ぼーっとしながら歩いてる。何もせずにノロノロと歩いてるから感覚的には十分ぐらいかけて教室に戻っている気がする。 「教科書忘れちゃった」そう言いながら教室に入ろうとしたとき、ブサイクちゃんとぶつかった。 いや、ぶつかってきたのはそっちだ。「うわ、ブサイクちゃんじゃん。君の汚い菌が私につくから触らないでくれる?」嫌な感じで発言した。彼女の口からは「ごめんなさい」一言だけ。もっと嫌な感じになったから前より強くこう言った。「なんて?聞こえなかったんですけど」「あ、ごめんなさい!」彼女はそう言ってその場から去った。「まったく、ちゃんとしてほしいわ」すると教室から荷物を持った和也が走り抜けた。「一緒に帰ろうよ!」だけど彼は無視をして行ってしまった。 ー 無視は酷いな、でもブサイクちゃんを追いかけるように見えたけど。そんな事ないか。 私は気にしないようにして忘れ物の教科書を取った。教室を見渡しても誰もいない。電気はついていなくて薄暗い教室の黒板を眺める。チョークでなにか書いた跡は一切残っていない綺麗な黒板。チョークはきれいに並べてあって、黒板消しもそうじしてある。見るだけで心も落ち着く。だけど、私の中に少しした罪悪感が残っている気がした。 「この黒板を掃除してるのはあの子だよね。いつも頑張ってるのにな」彼女がいつも掃除してくれているのはわかる。ありがたいけど、自分の中の自分はまだあの子が気に食わないという気持ちが多い。考えているともう五分が経つ。時間は四時半を過ぎている。荷物を持って夕日の光で照らされる中央階段を使って昇降口に向かうと、和也が靴を履こうとして立っているのが見えた。嬉しくてつい口に笑顔が漏れて気づいたら彼に飛びついているのがわかる。「和也!なんで教室の前で無視したのー?酷いよ。もしかして和也、愛美のこと嫌いなの?」「...嫌いじゃないけど、無視したのは急いでたから。」私は少しムッとなった。 「まさか、あの藤本ってやつを追いかけてたんじゃないでしょうね」「なんで藤本を追いかけるの。用事があるからだよ」「ええ、そうかなー。藤本が走り去った瞬間和也が教室を飛び出したからさ。まあ、あの子を追いかけてないならいいや」「いいってどういうことだよ」「和也は私の近い将来のか・れ・しさんなの。それぐらいわかるでしょ、美男美女で相性抜群なんだから!」和也は私の近い未来の彼氏。それぐらい彼もわかってるはず。 「冗談言うなよ。とりあえず、今日は親に早く帰るように言われてるから。今日は一人で帰るわ」「ああ、わかった。また今度二人きりでロマンチックな雰囲気で帰ろうねー」顔の頬が熱くなっていく。「いつかな、そんじゃ」彼はそう言い残して、校舎から、校門から出た。ボッチ帰り。慣れない帰り方だけど、学校から家までは歩いて十分ぐらい。今日は自転車で登校したから一人だし自転車を漕いで帰った。五時前。鍵を開けて入ると家中暗い。 「ただいまって、お母さん寝てるか」お母さんは夜仕事に出る人で、だから昼間はいつも寝てる。一人っ子の私。父親が不倫して親が離婚して、父親は家を出た。私が小学四年生のことだ。今はすっかり慣れてる。部屋着に着替えて、下に行って冷蔵庫を確かめる。カレーを作る材料はありそう。廊下からギシギシと音が聞こえる。きっとお母さんが起きてきたのだろう。「おかえり、お母さんちょっといつもより早いからもう出るわ。夜ご飯は材料全部使わないように」その時見た姿はメイクもヘアセットバッチリ。綺麗なお母さんだ。「わかった、いってらっしゃい」そう言ってお母さんは家を出た。お母さんは美人だから私も綺麗に生まれた。母子家庭になってしまって私は変わってる。過去にお母さんに良い彼氏さんをつくって幸せに暮らしてほしいって言われて以来。私はそれを聞いて誰にも負けない人にならないとと決めた。学校でいじわるなことをしてるのは自分でもわかる。でも大好きなお母さんとの約束を守るためなら私はなんでもする。いくら酷いことを言っても。いくら酷いことをしても。私は決めた。 「和也は私が絶対にもらう。彼は私の将来の彼氏なんだから」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!