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ヨイザクラ。
この国の天然記念物であり、春になると見ごろを迎える季節の風物詩である。
世界に尤も広く分布しているシノザクラと比べて開花時期が遅く、おおよそ四月中旬から五月上旬頃に見ごろを迎える桜だった。この国ではシノザクラよりもヨイザクラの方が好き、親しみがあるという人間が少なくない。この国出身の勇者パーティである僕達も同じだ。
特徴は、シノザクラよりも濃いピンク色の花弁。また、一枚一枚の花弁がシノザクラより大きく、ちょっと尖った形状をしている。よくよく観察すると花びらの先端が三俣の鉾のようにも見えることから、別名“海神の贈り物”というちょっと勇ましい名前がついているらしい。
「もうすぐ、ヨイザクラが見ごろを迎えるわけだが」
ちらっと窓の向こうを見て言うリーダー。
「アリスタ公園に植えた桜が、今年くらいから大きくなり、お花見に最適なサイズまで成長した。この桜をモチーフにした舞台も上演されたということで、最近は国中で話題になっているんだ」
「まあ、そうだね。昔はどの木もリーダーの背よりちょっと大きいくらいだったのに、今は立派な桜ってかんじになったもんね」
「ああ。小さな桜の木だった頃は、お花見をするのもそう難しくはなかった。公園もやや寂れた町外れにあって、訪れる人が少なかったからな。ところが今年はそうもいかない。多数の観光客が訪れる見込みと言われてるんだ」
そこで!と彼は手を叩く。
「とりあえず数日前から桜の木の傍に陣取って全力で場所取りをしようという作戦だ。良いポジションをよそから来た観光客なんかに取られてたまるものかコンチクショウ!」
「ものすごくみみっちいこと言ってる!!」
思わず、僕達はずっこけた。
盛大なミッションみたいに言うからなんだと思えば、単なる場所取りの話だとは。
「あ、あのねえ!」
がばっと最初に体を起こしたのは赤魔導士である。
「そりゃ、お花見の場所取りは大変でしょうけど!だからって強引に観光客押しのけてでも場所取りしようというのはモラル的にどうなのよ!?ていうか数日前からってナニ!?」
「俺達の花見を邪魔する方が悪い!それと花見のためならば一週間くらい徹夜できる自信あるぞ俺は!」
「いやいやいやいやいやいやいや!そんな、コミケの徹夜組じゃないんだから!ていうか一週間徹夜とか死ぬわマジで!!」
赤魔導士の彼女が言っていることは尤もだ。尤もなのだが。
――……なんでコミケの徹夜組とか知ってるの?
確かに、この世界には夏と冬に大きな祭典がある。それは間違いない。
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