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華はリカの方に顔を向けて訊いた。
「あなたはリカさんだったわね。あなたは貧困家庭の子どもには見えないけれど、やはり虐待を?」
リカは考え込みながら答えた。
「あ、いえ、あたしの場合は、メグちゃんに比べれば恵まれた家庭環境だとは思うんですけど。どっちかというと、金持ちとまではいかないけど、お金には不自由しない家です」
「でもお家にいたくない理由があるのでしょ?」
「あたしもダメ人間なんで」
「あらそう? そうは見えないけど」
「あたしには二つ年上の兄がいるんですけど、成績もトップクラスだしスポーツも万能のすごく優秀なお兄ちゃんで、来年は東京大学受験する予定で。その兄と比べると、『おまえはダメな人間だ』といつも両親から言われてて」
「ふうん、あたしたちは血のつながった本当の姉妹ではないけれど、まあ家族のようなものとしてずっと暮らして来たから、なんとなく分かるかしらね。そんな風に比べる物じゃないと思うけど、普通の親子、兄弟なら」
「ええと、そこ、あたしよく分からないんです。よその家庭がどういう感じなのか、そんな事学校のクラスメイトには話せないし、先生に相談も出来ないし」
口ごもってしまったリカに代わってメグが怒ったような口調で言った。
「リカはダメ人間なんかじゃないよ。何て言ったっけ、ヘンタイじゃなくて……あ、偏差値だ。リカの偏差値、ウチの倍だよ、2倍。リカの親って理想が高過ぎんだよ」
華が車椅子の上で上半身ごと左右に顔を向けて言った。
「なるほど、お二人の境遇はずいぶん違っているようね。でもこのトー横と言うのかしら、ここでは仲良しなのね」
メグが寒さを紛らわせるためか、小さくぴょんぴょんと飛び跳ねながら言った。
「この界隈に来れば、生まれがどうとか、学校の成績がどうとか、そういうの全部関係なく仲間って感じで付き合ってくれる年の近い連中がいつもいるからね。リカとは不思議と気が合って一番の仲良しだから自分の事話したけどさ、言いたくなきゃ誰にも事情なんて話さなくても済むし、訊かないのがルールだしさ。とにかく居心地いいんだよ、この界隈は」
リカは笑顔を顔に取り戻して言った。
「あたしもメグちゃんと出会わなかったら、悪い大人の人にさらわれてたかも。それにメグちゃんの身の上聞いたら、自分はまだマシな方だったんだなあって初めて知って」
メグが大きくうなずきながら言った。
「それはウチも一緒。リカと出会わなかったら、まともな家庭とか親ってどういうもんなのか一生知らないでいただろうね。そもそもウチみたいな底辺の家のガキと、リカみたいないい家の子が出会って友達になる事なんて普通ねえよ。それが出来たのは、このトー横界隈って場所があるおかげ」
華は心底感心した表情で言った。
「だいぶ分かってきたわ。このトー横という場所はあなた達にとって、とても特別で大切な場所なのね」
リカが不意にまた暗い表情になってぽつりとつぶやいた。
「そういう場所だった……と、もう過去形にするべきなのかもしれないですけど」
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