トー横氷河期

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 2月の深夜の東京歌舞伎町。暖冬傾向の日々の後に突然到来した寒波のせいで凍えるような寒さだった。  不夜城とも言われる新宿の繁華街も、その日だけは寒さのせいか、人通りは途絶え、遠くにちらほらと24時間営業のファストフード店の看板の灯りが見える程度だった。  途中の高さにゴジラの頭が乗っている事で有名な、低層階はシネマコンプレックス、上層階はホテルのビルの正面の歩道に、奇妙な空間のゆらぎが現れた。  直径2メートルほどの球状の空間が何もない場所に現れて、その表面は水面下から見た景色のようにゆらゆらと瞬き、向こう側の光景が歪んで見えた。  やがて歪んだ空間の揺らめきの中から4つの人影が現れ、球状の空間から出た。その歪んだ空間はたちまち消え去り、人影の輪郭がはっきり見えて来た。  真ん中に腰まで届きそうな長いストレートの黒い髪の女性がいた。彼女は大ぶりな電動車椅子に乗っていた。  左にはセミロングの黒髪の女性。彼女は手に視覚障碍者用の白い杖を持ち、その両目は開いていたが、瞳は焦点が何にも合っていない。  車椅子の左には2本の松葉づえで体を支えているボブカットの髪の女性。彼女は裾が広がったスラックスをはいていて、その裾と靴の間には一目でそれと分かる木製の義足がのぞいていた。  車椅子の後ろで、グリップを両手で握っている女性は肩にかかる程度の長さの明るい茶髪。落ち着きなく辺りをキョロキョロと見回し、頭上のゴジラの頭部のモニュメントを見つけると、幼児のような口調で歓声を上げた。 「わあ、カイジュ、カイジュ、キャハハ」  車椅子の女性がゆっくりと周りを見渡しながら言った。 「ふうん、ここが大都会東京という所ですか。時間のせいか、想像していたより人は少ないですね。(ゆき)ちゃん、お疲れさま。さすがにぴったりの場所へ運んでくれましたね」  雪と呼ばれたのは義足の女性だった。雪は車椅子の後ろではしゃいでいる茶髪の女性を見ながら応えた。 「(ほし)が以前テレビかなんかでここの光景を見て覚えていたからね。ま、(つき)ちゃんのナビなら大丈夫だと思ってたけど」  月と呼ばれた白い杖の女性が車椅子の女性に訊いた。 「星ちゃんの頭の中のイメージを正確に雪さんに伝えたつもりだけど、ここで合ってますか、(はな)ねえ様」  華と呼ばれた車椅子の女性は体の前を覆う毛布を右手でずり上げながら身震いした。 「ええ、やはり人が多い都会から事を始めたいですからね。ぴったりの場所ですよ、月ちゃん。でも、東京もこの時期は結構寒いのね。菅平(すがだいら)ほどではないにしても」  華は毛布の下の、自分の腹の辺りに手をあてて言った。 「ともかく宿を探しましょう。(そら)ちゃんの体調が心配」  
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