龍と成る女

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 それでも、息子がいるから。そう言い聞かせ続けて生きてきた。  神託を利用して、女の娘にも手を汚させて前王を廃位に追い込んだ。  隠居先の越来(ごえく)城に刺客を追い込んで殺した。  実の妹も、直接ではないが殺した。妹が毒を望んだから、言われるがままに渡した。  妹はその毒を飲んで死んだと聞く。  墓がどこにあるのか、なんて知らない。女は興味もない。  ずっと目の上のこぶだった妹がやっと死んだ。消えてくれた。その事実だけで、女は嬉しかったのだ。  それなのに、妹は死んでもこぶで居続けるらしい。  夫も妹も。死んだのに、まだ女を縛り続け苦しみ続けるらしい。  そして、こぶは一つから二つに。妹の呪われた娘が新たなこぶとして加わった。  嘆かわしい女だ。救いようがない。  心の中で生き続ける夫が女に問いかける。  お前を妻としたのが、まさか私の最大の間違えになるとは。  うるさい。黙れ。死人が口出しをするな。  そう思っているのまで見透かされそうで、また跡が残るほど殴られそうで、蹴られそうで、物を投げられそうで。女は怯えるだけ。  それならば、私の弟に……弟を今もまだ玉座に座らせておけばいいもの。身分不相応な権力を望むからこんなことになるのだ。 「もう……許して」  ぽつりと呟いても、夫は何もしてくれない。何も言ってくれない。  いつまでも、女を認めることも解放することもしない。  龍の一族として、受け入れてはくれない。  お前の息子など、王の器ではなかったのだ。  そう言われた瞬間、正確には言われたわけではない。女の中の夫が、女の想像する夫が言っただけなのだが、その言葉が女の中に潜んでいた龍を呼び覚ます。 「誰かおらぬか」  外に控えていた女官はすぐに女の呼び掛けに反応して部屋に入る。 「王様を今すぐここにお呼びしろ。王家の墓の建造について話す」 「かしこまりました」  女が好きでもない、まだ王にもなってない、伊是名島(いぜなじま)の百姓だった男に嫁いだ理由を思い出した。  自分の成すべきことを思い出した。 『いいですか、あなたは滅ぼされた王家の血を持って生まれたのです。その血を絶やすことはあってはなりません。必ず後世に残すこと、そしてその血をあるべき場所に戻すのです。必ず、この血を持つ者を玉座に据えるのです。母との約束を、必ず守るのですよ』  母は妹にそう言い聞かせていた。だが、姉である女にはその言葉を言ったことはない。  容姿が優れていないから、それだけが理由で冷遇され続けたのだ。  だからこそ、同じ父と母から生まれたとしても、妹の血を残したくない。自分と同じ血の流れる息子を玉座に据える。  そのためなら何でもする。誰でも殺す。 「……母上、話すことがあるのならば先ほど話せば良いものを」 「お呼び立てしてすみません。ですが、火急の要件ですのでお許しください」 「王家の墓のことについてですね。女官から聞いております」 「えぇ、そのとおりにございます。王家の墓に入れる血筋を定めた方が良いと思いまして。異なる血を持つ王族まで入れてしまうと、神々の怒りに触れてしまうのです」  妹の血を継ぐ者を、王家の墓に入れるわけにはいかない。 「王様の父である初代王の血を継ぐ者以外は入れてはならぬと。後世の者たちにも知らしめる必要がございますので、墓にそれを示す必要がございます。石碑などに残すのはいかがでしょうか?」
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