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今日もトラブルなく無事に終えると、私は一度裏の搬入口から出て表へと回り、再度お店に入って買い物をする。この店では店員割引があるので食料品だけではなく日用品もここでほとんど済ませられるのが本当に助かっている。
買い物袋を自転車のカゴにしまって家路につく。大家さんの家で待っている娘を迎えに行くと、今日も黒猫とセットで私の方へとかけてくる。
「いつもありがとうございます」
私に抱きついている娘の肩に手を置いて大家さんにお礼を伝える。
「私たちも楽しいから、気にしないでいいのよ」
大らかな笑顔で迎えてくれる大家さんにはいつもお世話になりっぱなしで恐縮してしまうが、娘がとても嬉しそうだからつい甘えてしまう。
そして二人でアパートに戻る際、隣りの部屋のドアが開いて学生さんと鉢合わせた。この春から越してきた青年は、律儀にもアパートの住人全員に挨拶をして回ったと大家さんに聞いていた。私は相手が誰か分からない時はドアを開けないし、娘にもそう教えているので、ちょっと前に偶然顔を合わせた際に初めて挨拶を交わした程度の顔見知りだ。彼のことは大学生としか聞いていないし、彼もまた私の家の事情など知らないだろう。
「こんばんは」
「こんばんは」
青年は私に声をかけたあと娘にも視線を送って再度「こんばんは」と微笑んで出かけていった。今ではお互い挨拶するぐらいには慣れてきたという感じで、とりあえずご近所トラブルがなさそうで良かったと、娘の温もりを左手に感じながら思った。そしてアパートの部屋に入りドアを閉めたところで娘が小声で聞いてきた。
「あの人が新しいお隣さん?」
「そうよ。学生さんだって」
「ふーん」
娘は靴を脱いでそそくさと奥へとかけていった。娘が彼に会うのは初めてだったし、人見知りでもしたのかしらと、娘の後ろ姿を眺めて思った。
その後、一緒に夕飯を食べながらいつものように娘の話を聞いていると、幼馴染の大智くんが気になる様子で、最近彼が話題にでることが多い。恋かどうかは分からないけど、表情をころころ変えながら話す娘はとても愛おしく思えるのだった。
夕食後、お風呂に入った娘は先に布団にくるまっている。私は一人音量を下げたテレビを観ながらのんびりと休み、番組が終わったタイミングでテレビや部屋の電気を消した。そして夫の写真に目を向けて「今日も頑張りましたよ」と心の中で声をかけ、布団に入った。
第4話 完
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