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■ 3 ■
「櫂くんちょうど良かった! 新しいコーデ試させて!!」
オレには姉がいる。5つ年上で専門学校を出たあとファッション誌のスタイリストをやっている。
「あ、まじで? ラッキー! 秋物どうしようかって思ってたとこなんですよね」
中学からは定期的にお互いの家で遊んでいたオレと櫂は、もはや家族ぐるみの付き合いだ。
今日も櫂がオレの家に遊びに来たわけだが、たまたま休みの姉に捕まってしまった。
オレに似合う服を探すのだと息巻いていたまぁまぁブラコンの姉と、人付き合いのいい櫂は仲がいい。
しかし姉は社会に出てスタイリストの職につくと「りおは何着ても似合うから微妙」などと言って、櫂を着せ替え人形にするようになった。
櫂は櫂で「莉央人の隣に立って恥ずかしくないように、俺もおしゃれしたい!」などと前向きに着せ替え人形に立候補している。
今考えればこれって櫂がオレに相応しくいようと努力してくれていたってことだろう。
「大学デビュー成功した?」
「亜花莉さんのお陰でバッチリですよ!」
「ちょっとりお……なに櫂くんに負ぶさってるのよ」
姉と楽しそうに話す櫂の邪魔をする気はないが、寂しかったのでくっついただけだ。
「え、な、なに……??」
動揺する櫂もかわいい。
「オレと遊ぶために来たんだけど」
「え、嘘! りおのヤキモチが分かり易い!! お母さん! りおがヤキモチ焼いてる。見に来て!」
「あらやだまぁほんとだわ! お赤飯炊かなきゃ!」
「櫂、部屋行こ」
「ぶっ……ぶはは! 俺ケーキ買ってきましょうか?」
「そうねぇ、お祝いだし」
姉に母まで加わり櫂まで調子に乗って、この日の夕飯は本当に赤飯が出た。
あとオレの好きな唐揚げと櫂の好きなとんかつと餃子。
櫂が当たり前のようにオレの家族と溶け混んでいて、なんかそれがすごく嬉しかったんだけど、食器棚に映るオレの顔は相変わらずの無愛想で。
だけどそんなオレすら笑ってただろと勘違いできるほど、明るく食べて話す櫂はその場の全員を笑顔にしていた。
今までだって櫂がウチで食べることなんてよくあって、そういう時はいつもよりもご飯が美味しいし、家族も楽しそうだった。
思い出せば思い出すほど櫂のことが愛しくて、なんで今まで友達だなんて思えていたのかまったく理解できなくなった。
櫂を送るついでにコンビニで買い物して家に帰ると締め出されていた。
「はぁ? なんでこんなに早いの?」
「どういうこと?」
玄関を開けてくれた姉の苦言に意味がわからないと問い返せば、姉がおもむろに「バイトを紹介してあげる」などと言ってきた。
更に意味が分からなくて戸惑っていれば、姉がため息とともに「うちの壁結構薄いから、外でやんなさい」と理由を述べた。
ああ、なるほどそういうことかと納得した。
キスくらいなら家族がいても普通にしている。
照れた櫂が「駄目」「はずかしい」など甘えた声を出すので、そのせいでやることをヤッていると思ったのだろう。
それ自体はどうでもいいが、可愛い櫂の声がオレ以外に聞かれるのは正直面白くない。ホテル利用も検討したほうが良さそうだ。
オレは特に訂正する必要も感じなかったので適当に頷いた。
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