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莉央人は生まれたときから顔が良かった。
なので赤ちゃんタレント? モデル? としてCMやドラマに駆り出されていた。
ただ壊滅的に喜怒哀楽が薄く、笑えない子どもはすぐに仕事がなくなった(これは莉央人のお母さんから聞いた話だ)という。
天使みたいな愛らしい莉央人は美少年になり、そのまま当たり前のようにイケメンになった。
日本人にしては色素の薄い茶色かかったふわふわの髪とはっきりとした瞳、すっとした鼻と柔らかそうな唇。
声も柔らかいのに涼やかで耳触りがよく、いつまでも聞いていたくなる。
そんな完璧な見た目の莉央人だが、残念ながら勉強もスポーツも努力しても中の中といったレベルだった。
周りの奴らは(大人も含めて)莉央人が手を拔いていると思っていた。だけど莉央人はちゃんと努力してた。マラソン大会のときはめちゃくちゃ早朝に走り込んでたし、放課後は図書館や塾に通って勉強してた。それでも順位は真ん中だった。
ただ見た目が馬鹿みたいにかっこいいから、周りが勝手に莉央人を何でもできるスーパーイケメンだと思い込んだ。
そんなの無視すればいいのに優しくて素直で努力家な莉央人は頑張って周りの期待に答えようとするのだ。
そんな莉央人が気になって俺はよく声をかけた。小学校から同じサッカークラブにいたし塾も同じだったから、学校は中学からしか一緒じゃなかったけど面識があった。
中学では「孤高のイケメン」だの呼ばれていたが、単純に莉央人は人付き合いが苦手で、ちょっと喜怒哀楽が表に出づらいだけだ。
みんなに遠巻きにされるのを寂しがりつつも容姿が整っているのは自慢したい、見た目からは想像できないそんな子どもっぽい莉央人の性格は、莉央人の家族と俺くらいしか気付いていなかった。
見た目完璧イケメンの莉央人はとにかくモテた。
中学から彼女が途切れたことがない。ただ告白されて付き合うものの、長くて一ヶ月しか続かなかった。
莉央人は好きになろうと努力したが、大体「イメージと違う」「一緒にいてもつまらない」「何考えてるかわからない」など一方的に振られるのだ。
勝手に期待して好きになって否定するっておかしくないか?
だけどなぜかそんな女子ばっかりで、莉央人も二桁入ったあたりで止めればいいのに懲りずに付き合った。
「オレのこと好きになってくれるの嬉しいし、前の子とは違う子だから、付き合ってみないとわからないよ」
無表情でそんなことをいう莉央人は節操なしのようだが、本心から次こそは不器用な自分でも付き合ってくれる女子が現れると期待していたんだと思う。
高校生になってすぐ友人らの中では一番に童貞から脱してて、そのときはすごく嬉しそう(相変わらずの無表情だったけど、瞬きの数も多かったし口調も早かった)で、ついに莉央人の運命の相手が!と思ったけど、その人とも一ヶ月もたなかった。
その頃には莉央人が「来る者拒まず去る者追わず」だってことは有名になってて、そこに「すぐ抱いてくれる」という噂も追加されて、ヤリ目的の女子にまで狙われるようになった。
顔がいい莉央人と寝るのはステータスらしい。
さすがにそれは莉央人のためにならないし、俺がすごく嫌な気分だったから苦言を呈した。
「なあ莉央人。セックスなんてそうそうするもんじゃねーよ。俺たち高校生だぞ」
超絶イケメンのモテ男の莉央人にこんなことを言えるのは多分俺だけだったと思う。
表情の変わらない綺麗すぎる顔で見つめ返されれば大体のやつはビビるし、見下されてると思うだろう。
だが返事がすぐにこない場合、莉央人は言われた言葉を一生懸命考えているのだ。
相手を馬鹿になどしていない。
「付き合うときに「半年付き合わないとヤらない」ってまず言えよ。それでヤリ目のやつは諦めると思うし」
「……櫂が言うなら、そうしてみる」
「おう、そうしろそうしろ」
ちなみに櫂とは俺の名前だ。雨宮櫂。
この会話をしたときにちょっとだけ莉央人がホッとしたのを感じて、周りに気を使う方向間違えてないか? なんて真剣に思った。
同時にコイツには俺がいないとだめじゃないのか? なんて偉そうなことも思ってしまった。
というか、そう思うことで莉央人の隣りにいることを正当化したのだ。
いや、俺たちは幼馴染みたいなものだし、友達なんだから近くで馬鹿やってたって可笑しくはないんだけどさ、思春期になってAVとかみて、自分の恋愛対象が同性だと気付いてしまった俺からすると、なんとなくそんな言い訳が必要だった。
そう、後ろめたかったのだ。
莉央人に抱かれたらどんなだろうって想像して抜いたこともなくはない。後ろの開発はもっぱら妄想の莉央人に世話になった。
噂では結構激しめらしいとか、甘えてくるとか、なんかもう色々聞いたし……まあそれは置いておいて。
俺の忠告のお陰か高校2.3年はまあまあ穏やかだった。
付き合ったり別れたりはしてたけど、爛れた関係ではなかったみたいだし、切れ目がないということもなかった。
女と付き合う莉央人を俺はモヤモヤした気持ちで見守っていたが、あまりにも振られるし、その時に否定されて判りにくく落ち込む莉央人を全肯定して慰めるという美味しい立場を得ていた俺は良き親友の皮を被り続けた。
その皮が破れたのは高校の卒業式だ。
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