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「予定を入れた」って言ってた。つまり俺とは遊べないってことだ。
俺との恋人ごっこをついに終わらせるということなんだろう。
それならここで友人に恩を売るのも悪くないのかな。
「時間は?」
「朝の6時から9時」
「あー…」
まさか俺の誕生日に別れ話をしてくることもないだろうし、ちょっとぐらいなら莉央人も会ってくれるだろう。
そうなったとしてもその時間なら問題ないはずだ。
「その時間なら」
「ダメ」
そこまで考えて「いいよ」と言うはずだった俺の言葉に続いたのは、拒否の言葉だった。
「あ、井瀬っち、おつ〜」
疾風の挨拶に莉央人は頷くだけで挨拶を返す。
俺の返事を確定したのはいつからそこにいたのか、俺の後ろに立っていた莉央人だった。
「なんだ、あめめも予定あるのか、りょーかい。ほか当たるわ!」
じゃあね〜とその名のごとく風のように疾風は立ち去って行った。
俺が首を傾げていれば、C定食のカツ丼&うどんにコロッケ2個と山盛り唐揚げを持った莉央人が隣に座る。
「日曜はダメでしょ?」
「いや、え、でも」
「ああ、櫂にどこ行くか言ってなかった……とりあえず麺を食べよ。ラーメン伸びるよ?」
特に表情を変えることなく綺麗な顔のまま莉央人はうどんをすする。俺も莉央人もまあまあ食べる。莉央人は揚げ物大好きだしマヨラーでもあるんだが、似合わないとよく言われてカノジョと食事に行くときは自制したと言っていた。
だから俺の隣で好きなものを食べてる姿は見ていて嬉しい。いや、そうじゃなくて。
俺も言われた通りにラーメンを平らげカレーに口をつけ始めた頃、恐ろしい速さで全部食べ終わった莉央人がスマホをいじって鼠が有名なテーマパークのホームページを見せてきた。
「9時開園だから7時のバス取ったんだ。ああ、直通バスが駅から出て、それの方が乗り換えなくて楽」
「……ほう」
「誕生日は二人で過ごしたいって、オレ言ったと思うけど」
「……へい」
もはや返事なのかなんなのか判らない掛け声を発した俺は、頭が真っ白になる。
莉央人はわざわざ俺の誕生日に予定を入れた。
↓
つまり俺と誕生日を過ごさない。
↓
結論:お別れする。
の流れだと思っていた俺は再び首をひねる。
「莉央人、日曜予定入れたって…」
「うん、だから予定」
無表情のまま莉央人が言い切る。
たしかに何の予定か聞かなかった俺も悪かったと思う。
だけど、莉央人はあくまでも「恋人たるもの」という恋愛経験から対応したに過ぎない。
うっかり「二人で過ごす」ではなく「二人で過ごしたい」と言われたことに顔が緩みそうになったが、勘違いしちゃいけないんだ。
俺は言いたいことをぐっと飲み込む。
莉央人との会話は怖いくらい周りが盗み聞きしている。これ以上は学食でする話じゃない。
「今日、うち来て欲しいんだけど」
「うん。五限まであるけどいい?」
「終わったら連絡して」
「わかった」
こくりと頷いただけなのに莉央人の姿はドラマのワンシーンみたいで無駄にかっこよかった。
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