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なし崩し的に始まった俺と莉央人の交際だが、そろそろハッキリさせないといけないだろう。
俺はいつもの莉央人お迎えセット(オレンジジュースとざらめ煎餅だ)を用意する。夕飯食べるならなんかデリバリーしてと軍資金を置いた母はパート先の飲み会へ行ってしまった。
なんか狙ったかのように家族不在だが……いや、決して下心はなく、むしろ場合によっては別れ話になるはずだ。
せっかく俺のために用意してくれたテーマパークのチケットだけど、友達として遊びに行ったっていい。そう提案した方が莉央人がホッとするかもしれない。
こんな時ばかりはみんなみたいに莉央人が何考えてるか解らなければよかったななんて思ってしまう。
部屋をなんとなく片付けていれば莉央人がやってきた。
「おばさんもいないの?」
「飲み会だって。誰もいねーから遠慮しないでいいぞ」
「うん」
すでにお互いの家族も親戚みたいな俺たちなので、親がいたところで莉央人が気後れすることはないが、一応伝えておく。
いつも通り俺の部屋でお気に入りのクッションに座ると、莉央人は当たり前のようにポリポリと用意した煎餅を食べはじめる。
俺もいつもの定位置、莉央人の隣に座った。
「あのさ、莉央人、気持ちは嬉しいんだけど」
「テーマパーク嫌だった? あそこだと変に声をかけられないから、オレは遊びやすくて好きなんだけど」
たしかに莉央人と街を歩くとナンパやスカウトが多くて面倒臭い。さすがの莉央人でもスーパースターの鼠たちの前ではそのオーラが霞むらしい。
「なるほど……じゃなくて! 遊びに行く場所の話じゃなくて、その、俺たちの関係のことだよ…」
「うん?」
何を言われるかわかってない莉央人は煎餅をボリボリ噛み砕いて飲み込むと、まっすぐ俺を見つめてきた。
殺人的に顔がいい。
うっかり萌え死にそうになりつつも、ごほんと俺は咳払いをする。
「俺が変なこと言って、こんなことになってて、ちゃんと莉央人は恋人らしいことしてくれてるけど、やっぱり良くないと思うんだ」
「どういうこと?」
「好きでもない相手と付き合ってるのってちがうと」
バキっと何かが割れる音がして、莉央人を見れば手に持っていたざらめ煎餅が砕け散っている。
莉央人自身はいつもの無表情だ。
「いまさら、そんなこと言うの?」
「あ、や、その、恋人じゃなくなったって友達でも変わらないだろ?」
「疾風とはキスなんてしないよ。櫂はするの?」
「するわけ無いだろっ!」
「じゃあ違うよね。友達と恋人は全然違うよね?」
綺麗な顔を歪ませることなく、莉央人が顔を寄せてくる。
気付けばベッドを背に両手で囲われてしまった。
「違います、ね。でも俺たちは変わらな……っ」
思わず敬語で話した俺の口が莉央人の口で塞がれる。
ざらめの甘い味に気を取られていれば、ちゅぅっと唇を吸われた。
「櫂はオレのこと飽きたのかもしれないけど、オレは好きだから別れない」
至近距離にある馬鹿みたいに綺麗な顔を俺は凝視する。
誰が誰を好き、だって?
「絶対に別れたくない」
そしてまた顔が近づいてキスされた。
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