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前編:雨宮 櫂の言い訳
□ プロローグ □
「来週の日曜だけど……」
昼休みで混み合う大学のカフェテリアの雑踏の中、俺は隣に座る誰もが思わず振り返って確認してしまう程、顔の整った男におずおずと話しかけた。
「ああ、その日なら予定、入れたよ」
俺が本題に入る前に顔が良すぎる莉央人が無表情のまま即答する。
―― いつかはこんな日が来ると、なんとなく……いや確信していた。
心構えはしていたけど、実際現実として突きつけられるとさすがに堪える。
「え、あ、そ、そ、そう、なんだ……そっか」
「うん」
きっと莉央人は来週の日曜日が何の日かなんて、覚えていないのだろう。
……いや、ちがうか。
分かっていて、俺と一緒に居なくていいように予定を入れたのだ。
戸惑う俺など気にもせずに、男のくせに長い睫毛を伏せながら、やたらに顔のいい、俺の(たぶん)恋人(で間違いないはず)の井瀬莉央人は涼し気な顔でアイスティーを飲んでいた。
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