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もうこうして会うことは二度とないだろう。
俺たちの恋は決して叶うことはないのだから。
派閥の違う組織に属している俺たちが出会ったのは、任務としてあたっていた仕事中で、たまたま隣に居合わせただけ。
お互いの組織にバレないように身を隠し、俺の前で盾になりながら息を殺す
。
その横顔がとても逞しくて、自分よりもがたいの良い身体につい見惚れていた。
いつ殺されるかもわからない状況の中で、よく冷静に男の顔を見ていられたものだと今となっては不思議に思う。
でも、それだけの絶対的安心感が目の前にあったからだとも思う。
「お前、見ない顔だな」
「そっちこそ……」
「もしかして、おまっ……」
すぐに相手が敵だということを悟り、すかさず一定の距離を保つと、互いに銃を向ける。
たった一瞬のスピードで男がただものではないということはすぐに察しがついた。
敵だとわかっているはずなのに――お互いに見つめ合ったまま動けない。
理由は簡単だ。この数分のうちに俺は目の前の男に惹かれていたからだ。
「10数えるうちに、俺の前から消えろ……」
小さく太い声でそう告げられ小さく頷けば、互いに心の中で数を唱え、最後の1秒に差し掛かったと同時に、俺は背を向けて走り出した。
背を向ける寸前まで決して目を逸らすことなく見つめ合ったままの時間が続いていて、このまま時間が止まってしまえばいいのにとさえ思っていた。
背を向けたのは、相手が撃ってこないという核心があったからだ。
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