ただ、結婚したかっただけ、浮気した旦那の末路は彼女のせいではありません

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男は自分の容姿に自信があった、大抵の女なら落とせると思っていたのだ、どんな女でも夢中にさせることができると。  だが、それも若いうちだ、十代、二十代の頃はよかった、顔の良さに自分が愛想良く微笑みだけで恋に落ちて体を預けてきた。  恋愛期間は長く続く事もあったが、一晩だけということもあった。  だが、三十も半ばを過ぎると少しずつ焦りを感じ始めた。  自分が一人、特定の恋人がいないと知ると昔なら簡単にすり寄ってきたが、今は違う。  その年で一人なんて何かあるのか。  病気、同性愛、もしかして最近はやりのモラハラ、性格に難あり、変な性癖でも有るのではとひそひそと噂されるのだ。  独身だと知ると若い令嬢達は喜んで自分の周りに集まってくる、だが、中には目を細め、いぶかしむような表情で見てくる女もいた。  そんな男が頼れるのは金だ、ところが、ある日、縁談が舞い込んできた、会社の上司から勧められたのだ、  ところが一つだけ問題があった、女性は自分の容姿に自信がない、太っているのだという。  結婚してくれるなら自由にしていい、少しなら浮気も構わないと言われて男は結婚を決めた。  仕事はそこそこ、だが金を持っているということを聞きつけたのか、以前よりも女性の視線を感じるようになった。  多少なら浮気、遊びも許すと言われている、公認なのだ。  だったらいいだろう、妻となった女性は確かに太っていた。  これなら結婚相手を見つけるのも難しいだろう。  そんな女と結婚したのだ、少しくらい自由に過ごしても良いはずだと男は思った。    その日、男は妻の父親から呼ばれた。  普段、いやめったに会う事はない父親に食事に招かれ、男は何かあるのではと最初は緊張していた。  「娘とは仲良くやっているかね、まあ、自分の趣味に忙しくて、あれはふらふらしているんだろう」  妻の趣味、そんなものがあったのかと男は驚いた。  巨体を揺らすようにして朝から出掛けると丸一日、泊まりで帰ってこない事もある。  何をしているのかと以前、聞いた事があった。  趣味と遊びと言われて、深く聞く事はしなかった。  詮索しないでと言われていたせいもある、それに妻が留守にすると自分には都合がよかったのだ。  だから、男は何も言わなかった。  「娘は金を生むという行為が好きでね、私の祖父も才能があった、受け継いでいるのだよ、屋敷、会社の財はあの子が産んだのだ」  驚いた、まさか、自分の妻に、そんな才能があったとは知らなかったのだ  「だから、私はサポートに徹しているんだ、自由に動けるようにね、今日、君を呼んだのは」  見て欲しいんだ、テーブルの上に広げた紙の束と写真を見て男は驚いた、それは浮気の証拠なのだ。  ホテルに出入りする写真から相手の女の身上書まで、念入りに調べ上げている。  全身が震えた。  もしかして離婚しろ、別れろと言われるのだろうか、だが、多少の浮気は公認の筈だ、説明しなければと思ったとき。    「まあ、いいんだよ、こんなことは」  義父はにっこりと笑った。  どういうことだろう、浮気、不貞を怒っていない、気にしていないということだろうか。  「君は、これを私や娘が調べたと思っているのかい」  どういうことだ、送ってきたのは妻ではない、そういうことだろうか。  娘には今まで求婚してくる相手が大勢いてねと言われて、男は、えっとなった、あの容姿で、豚なんてものじゃないぐらい肥え太った女性に結婚を申し込む男がいるのかと驚いた。  「相手は大会社の御曹司、海外のセレブ、断るのは全部、私の仕事なんだ、それで今後のことだけど、娘は君の事を気に入っているんだよ、君はどうだね」  言葉の意味がすぐにはわからなかった。  その時、ドアをノックする音と執事が顔を出した、お嬢様がと少し上気した声だ、だが、入って来た女性を見て男は驚いた。  黒髪の美女の姿に息を飲んだ。  「お父様、ご機嫌いかが」  声をかけられて、この美女は自分の妻なのかと驚いた、いったいどういうことだと、ここ数ヶ月、会っていなかったダイエットをしていたとしても変わりすぎだ。  すると、女はあれは変装と笑った。  仕事柄、初対面の相手には有効だというのだ。  「実は封書が送られてきましたの、あなたの夫は、こんな男ですよって、だから別れなさいということでしょうか」  「だろうな、多分、おまえの求婚者だろうが、結婚したら諦めると思ったら、こういう手を使うとは、どうするね、別れるかい」  私と別れたいですか、妻がにっこりと笑いかけてくる、その笑顔は今まで自分が出会った、どんな女よりも綺麗だ。  男は、どきりとした。  「それにしても君も脇が甘い、近づいてくる女の正体も見破れずに乗せられるとは」  このときになって男はわかった、自分に近寄ってきた女達は好意をもって近づいてきたのではないと。  「実はこういうものもあるんです」  そう言ってテーブルに置かれたのは小型のレコーダーだ。    「あんな男が、あなたの夫だなんて、信じられませんわ」  「自分に魅力があると本気で思っているようだけど」  「セックスだって、そこそこ」    聞こえてきたのは男女の男の対する評価だ。  普通の男なら腹を立てるだろう、だが音声が聞こえなくなった後、男は真顔で言った。  「自分は別れるつもりはありません」  その言葉に義父と妻は真顔になった、だが、次の瞬間、吹き出した、本気なのと。  「あなたって本当におもしろい人ね」  「別れなくてもいいんじゃないか、この様子だと」  義父は、にっこりと笑った。  「求婚者達は結婚したからといって諦めるような人達ではないんだ、男だけではない、娘の商才に惚れ込んでいて是非とも国に来て欲しいと言っている、できるなら自国で結婚して永住して欲しいというくらいだ」  何故、自分と結婚したのかと聞くと、人妻の肩書きが欲しかったという言葉が返ってきた、夫がいると商談にも好意的に見て貰えるのと笑いながら言われてしまった。  「でも、近づいてくる女の正体も見抜けないとは思わなかった」  間抜けだと言われているようだ普通なら腹が立つはずなのに言葉が出てこない。  ここで妻と離婚、別れたら自分の未来が想像できなかった。  結婚して数ヶ月が過ぎて、すっかり馴染んだ贅沢な暮らしを捨てられるのかと聞かれたら、できるわけがない。    それから一週間もたたず、男が亡くなった。  殺傷事件など昨今では、それほど珍しくはない。  女は男の腹をナイフも何度も突いたらしい、よほど酷い目にあったのだろう。  自業自得だよ、あんな綺麗な奥さんがいながらと周りは噂した。  「おまえの求婚者達は情熱的というか、凄いな」  「私、お金の方が、仕事や商売の方が楽しいです」  夫がいなくなったんだ、また結婚できるぞと言われて美女は、考えてみますわと笑いながら窓の外を見た。
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