絶望の朝

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 手術室の前で立ち尽くしていると、いつの間にか医師が目の前にいた。僕が何か言うと医師は首を横に振った。呼吸1回分の間があった。僕の膝からは力が抜け、その場でしゃがみ込んだ。聞いた事の無い悲鳴が辺りに響いた。それは僕の声だった。  もう立てないと思った。ここで死にたいと思った。    記憶が途切れ曖昧になっている。次の記憶では僕は椅子に座らされていた。目の前にはベッドがあり、そこには眠っている美希がいた。いつもはお腹の部分が膨らんでいるのに、何故か平らになっていた。理由は分かっていたが、事実を飲み込む事を全身で拒否していた。  僕は美希の手を握った。温かった。美希。  目を覚ました美希は覚悟していたのでだろうか。静かに涙をこぼした。僕は美希の手を握り続けた。僕がしっかりしなければ、それだけを思いながら。  退院した美希はお腹を僕に見せた。 「お腹、平らになっちゃった」と僕に言い、目を強く瞑った。声は涙で滲んでいた。「あの子、戸籍も何も無いの。生きた証が何も無いのよ。せめて、私のお腹に妊娠線があったら、あの子の生きた証になったのに」  そう言い、美希は両手で顔を覆った。僕はなんにも言えず、抱きしめるしかできなかった。美希の泣く声に僕の声が混ざった。
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