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「そう」と僕は答えた。そっけなさ過ぎると思い、「残念だ」と付け加えた。
僕は2人分の朝食をテーブルに並べて席に着いた。美希も僕の正面の席に座った。顔を上げれば顔が見えるだろう。でも、それを見る気持ちにはまだなれない。もう少し、もう少しだけ。僕は自分の粟立つような、ささくれ立ちそうな気持ちを凪に戻す。
食器の触れ合う音が響いた。普段の美希なら『美味しいね』だとか、『黄身の半熟具合が最高!』だとか、『今度の日曜日はどうしようか?』なんてことを言うはずだった。
僕は顔を上げた。美希と目が合った。思わず目を逸らしてしまう。美希の方も逸らした。
「残念、だったね」と沈黙に耐えかねて、さっきと同じ言葉を僕は繰り返す。
「……うん」と今度は美希も言葉を返してくれた。けど、すぐに目を伏せた。
食事を終え、僕は仕事に行かなければならない時間になった。美希はもう10分したらやはり仕事に行く。何か美希に言いたかった。けれど、いい言葉は浮かばなかった。
「行ってきます。気をつけてね」と僕は言った。『気を落とさないでね』ではあまりに他人事だし、僕の方が美希よりも大きな失望を見せるのは不適当だ。僕は出そうになるため息を飲み込み、美希を抱きしめ、軽く頭を撫でた。
「大丈夫だよ」と美希は言い、微笑んでくれた。
「うん。ごめんね」と僕は言った。
「悪いのは私の方かも」と美希は言った。
「どっちも悪くない」
「……そうだね」
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