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こきゅと喉がなって、おさえられないえずきがわきあがる。自分じゃ制御できない内臓の動きに、太ももをつかんだ手を反射的ににぎった。
はぁっ
色っぽい、低いあえぎが彼のくちからもれる。苦しくて吐き出してしまいたくなるけれど、きもちよさそうなその声にはげまされて、もう一度喉のおく深くまでくちいっぱいに含んだものを迎え入れた。
あ゙、きもちぃ……、
やさしく髪をつかんだ手にぐっと入ったちからが、快感を伝えてくる。このままくちで受け止めるべきか、それともここまでを前戯にしてうしろで受け止めるべきかを迷う。
◇
『本気にならないやつとしかあそばない』と言った彼のことばは誠実だと思う。セックスのふつうがどうかなんて、道徳を説かれるよりも、自分のスタンスを明示して相手をさがしたほうが、よっぽど建設的でやさしい。
それに同意できなければ相手をしなければいいし、したければ彼のルールであそべばいい。たとえ、それが自分のスタイルと違っていたとしても。
彼を好きになったのは偶然だった。いわゆるひとめぼれみたいな、そういうやつ。毎日まいにち気になってしかたなくて、広い大学のキャンパスの中で、彼のすがたをさがしつづけた。
ようやくサークルつながりの飲み会にもぐりこんで、つかんだチャンス。仲良くなれればいいな、というつもりで声をかけたのに、あけすけではっきりとした彼の主張にうっかり釣られて、いつの間にかこんな展開になっている。
いままでの経験人数は恋人だったひとりだけ。浮気なんてもってのほかだったし、キスだって彼だけしかしていない。でも七歳年上の恋人は、年齢相当の経験値で僕にいろんなことを教えてくれた。
だから経験人数は少なくても、それなりにセックスには慣れているつもり。だけど、あそんでいるか、と言われたらそれは否で、重いのがNGだと言われたら、あそんでいるふりをするしかない。
セックスにリベラルなひとたちのふつうがどんなのかわからなくて、僕を誘ってきた彼らの言動を思い出してまねをする。
きもちよければ良くて、きもちいいのが好き。だったらどうする? どうするのが正解? 迷いながらくちを外して、彼を見あげた。
くちの端から、喉のおくを突かれたせいであふれた唾液がたれている。それがはずかしくて、ぺろりと舌でぬぐって、彼を誘う。
「続きは、僕のなかにして?」
ほんとうは、くちだけで満足してそれで終わっちゃったらいやだなっていう、僕の下心なんだけど、彼にはそれで正解だったらしい。彼はにやりとくちの端で笑って「すぐに入れられんの?」とささやいた。
ひさしぶりだし、自信なんてないけれど、このチャンスを逃したくなくて、ちょっとだけ慣らせば、なんて強がった。
「フーン……、やらせてくれんの?」
「やらせ、って……?」
「慣らすのスキなんだよね。でもみんなすぐ突っ込まれたがってやらせてくんねーからさ」
「い…いよ……。してくれる?」
「じゃ、場所変えようぜ。とろとろに泣かせてやる」
ちゅとひたいにキスをして、彼はきゅうくつそうなパンツのなかに性器をしまう。そうして、いくぞと僕を見ないまま言った彼のあとをあわてて追った。
◇
「んん゙っ……、それっ、や……」
「やだくねーの。ほら、ちゃんと腹にちからいれてみ」
「それ、おさないで、でちゃうっ」
「出せよ」
「ゔぅぅ……」
いやだ、いやだと抵抗はしてみたけれど、お腹を押されてちょろっと水があふれだす。そうしてしまえば決壊はすぐで、じゃば、と勢いよく水があふれだした。
「んー、イイコ。じょうずじゃん」
彼に連れて来られた部屋の浴室。最初の洗浄はひとりで済ましていたけれども、一緒に入ろうと連れ込まれた浴室で、好きなひとのまえなのに醜態をさらした僕は、恥ずかしくて恥ずかしくて、めそめそと泣いた。そんな僕の髪を、彼のやさしくて長い指がなでる。
「こんなの、やだぁ」
「ん、がんばったな。つぎはごほうびな?」
そのときだけの甘い声であやされて、うんうん、とうなずいた。そのまま浴室をでてくるくるとからだを拭われ、手を引かれた先で、ふわふわとしたままのからだをベッドの上に引き上げられる。
「ほら。おいで」
両手を広げた彼のうでのなかに、おずおずと身をあずける。するりと彼が腰をなでて、迷いなく僕のうしろへと手が伸ばされた。
「すこし慣らせば入るんだっけ?」
いじわるくささやいて、ほぐれたいりぐちをくぷくぷと指先が突く。
「さっき、お風呂でしたから……」
「だぁめ。ほら、にぎってみ? これ、入るんだから……、もっとほぐさないとだめだろう?」
そうやって握らされた彼のものは、指がぎりぎりまわるくらいにたくましい。そのサイズに僕はごくりとつばをのんだ。
「ふっ……、やーらし。期待した? これがお前んなか、こすりながら出入りすんだよ。きっとここ、いっぱいに開いていっしょうけんめい咥えこんで、すげえかわいいだろうな」
「や…、だって、こんなの、むり、かも……」
「そう?」
おびえる僕のことばに、彼は満足そうにほほえむ。それから、ちゅ、とおでこにキスをして、くぷぷ、と指先を僕のなかにおし込んだ。
「むりじゃねえように、いっぱいひろげような」
指を曲げられて、くるんと入口を内側からなでられて、僕はたまらず、あ、あ、と声をあげる。
「な、これ、ほしい?」
僕の手にこすこすとペニスをこすりつけながら、彼が聞く。こくこくとうなずいても彼は許しくてくれずに「言って、聞きたい」と僕の言葉をねだる。
「ん……、これ、ほしい……」
「これって、なに? これじゃわかんないから、ちゃんと言って」
「お…、おちんちん……、おっきいの……」
「ん、それを?」
「……いれて」
「どこに入れんの?」
「ぼくの、…おしりに……」
「おちんちん、おしりに入れてほしいの? こんなちっちゃい穴なのに?」
「うん……、いれてほし……」
「入れるだけでいーの? ちっちゃい穴に入れるだけで満足?」
「ぅぅ……、いじわる……」
「だって、言ってくんねーとわかんないし。間違えてても困るし? ほらっ」
ぐるん、と彼は僕の後ろに突きさした指を回して、ぐちゃぐちゃとかきまぜる。久しぶりだったはずなのに、僕のそこは、彼の指をずっぷりと飲み込んで、はやくほしいとうねっていた。
どうしようもなくこらえきれない声が、僕のくちからあふれる。
「ぁんんっ……、それっ、それっ……、まぜないでぇっ」
「だってこうしねえと、お前の広がらねーし? 広がらねーと入れられねえし? ほら、こうすんの、指だけで満足?」
ぬぷぬぷと抜き差しされて、なかの敏感な場所を彼の長くてきれいな指がなんどもなでる。ぼくのからだは、そうされるたびにびくびくとふるえて、覚えのある快感をほしがってゆれていた。
「んんぅ……、やだ、ゆび、やだぁ……」
「ほら、言ってみ」
「……、おっきいおちんちん、いれて……、それから…、ぼくのおしりのなか、かきまぜて、ぐちゃぐちゃにして……!」
「ふぅん、そうされたいんだ? いーよ、してあげる。じょうずに言えたから、好きな体位で入れてあげるよ。どうしてほしい?」
ぬぽん、とゆびが引き抜かれて、彼が聞く。
「……うしろ、うしろから、して」
がまんできずに、いちばん好きな体位をねだった。はらのおくがきゅうんと期待する。
「いいよ。こっちに尻むけて、ちんちん入れるとこ、広げてみせて?」
そう言われてよつんばいになり、彼に尻をむけた。そうすると、ぐちゃぐちゃにされて忘れていた羞恥心を思いだす。このごに及んでもじもじする僕のお尻を、早くしてとばかりにぺちんと彼が叩いた。
「うぅ……、はずかし……」
「恥ずかしいねぇ。よく知りもしない俺に、ぐちゃぐちゃにしてほしくて、尻むけて、恥ずかしい場所見せてるんだ?」
「……やだ、いわないで」
「なんで? 恥ずかしいの、好きでしょ? 恥ずかしくて、気持ちいいの好きだから俺におねだりしてるんでしょ? ね……、広げてくれないと、どこに入れるかわかんないよ」
ぬくぬくと、穴の上を彼のペニスが行き来して、たまらず僕は腰をゆらす。それから、お尻だけを突き出す恥ずかしい格好になって、左右から尻たぶを彼の前に開いてみせた。
「おねがい……、おちんちん、いれて」
亀頭のさきが、くぷりと穴にはまる。
「ここに、入れていいの?」
「うんっ、そこ……っ♡」
くぷぷぷ、と彼の太いペニスが、僕のそこ入って、僕は息をつめた。いままでに感じたことのない圧迫感。ぎちぎちとめり込まれていくそれは、僕の限界ぎりぎりだった。
「あー……♡、あぁ……っ」
ゆす、ゆす、と前後させながら、彼が僕のなかにすべてをおさめてゆく。
「あー……、すっごい。俺んの入れられて、めいっぱいひろがってるよ」
「んっぅ……」
「どう? きもちい?」
「っ……♡♡、きもち…いっ……♡」
僕のからだは、あまりの気持ちよさにびくびくとふるえている。もう、なにも考えられなかった。きもちいい、それだけに全身を支配されていく。
「きもちいいんだ? じゃあ、こうされたら、どうなっちゃうのかなっ」
ずるり、と彼が引き抜かれて、ばちん、と勢いよく突き入れられる。
「あぁっ!」
僕の叫んだ声なんて聞こえないみたいに、彼は連続してぱんぱんと僕に腰を押しつけた。いきなりの容赦ない抽挿に、がくがくとからだがけいれんする。
「あー……、すっげ。きもちぃ……」
「あっ、あぁっ……!!」
ずぷんずぷんと何度もきもちいいところをこすられて、火花がとんだ。彼の声が遠く聞こえてくる。かってにからだが絶頂をきわめて、びくびくとふるえる。
久々の強すぎる快感に、ぞわぞわが止まらない。
「これだけでいっちゃった? かーわいいの……。ほら、これからだから、しっかり味わいな」
そう言った彼が上から僕の腰をおさえつけて、抜き差しをして、ぐちゅぐちゅと僕のなかをこねくりまわす音が聞こえる。それから、とぎれとぎれの僕の声。それから……、
◇
ゆらゆらとからだがゆれている。ぼんやりとした照明のひかりが、きらきらとまたたいていた。
ぺちぺちと頬を叩かれて、目の前の彼に視線を合わせる。
「あ……」
「だいじょーぶか?」
「……ん」
はだかの胸がぺったりと汗でしめって、はりついている。規則的な抽挿がきもちいい。なにもかもが、ぼんやりとしていた。ぬるま湯のなかにいるみたいな、そんな快感。
「もうちょいだから、がんばれ」
「もう……?」
「もう一回、イクまで」
「……やだ」
「やだくねーよ、きもちいいだろ?」
「きもちぃ……♡ ずっと…してぇ……」
ぐわんぐわんまわるあたまでねだった。
「あー…、マジか」
ぱちんと腰をうちつけられて、ぐりぐりと奥をすりつぶされる。
「あっ♡、あっ……♡♡」
「お前、ヤバイな。そんなん止まんなくなるわ」
ぐぼぐぼと抜き差しされて、あまりのきもち良さに、ぐりぐりと腰をおしつける。はぁっ、と彼の低い声が耳もとでひびいて、ぞわぞわと脳髄からしびれた。彼の手が尻の肉をつかんで、より奥深くを探られる。
「ー~~……っ♡♡♡」
そのまま、ぐ、ぐ、と押し込まれて、ちかちかと火花が散った。
◇
……やってしまった。
ベッドの上に転がったまま、浴室から出てがしがしと髪をぬぐう彼を見ている。結局さいご、もういちど意識を飛ばして、気がついたらいまだ。
あそび慣れている風を装わなきゃいけなかったのに、さいご、どろどろになって感じてしまった。セックスで意識を飛ばすなんて、どう考えてもあそんでる風ではないだろう。……と思うんだけど、実際、あそんでいるひとたちがどうなのかは、僕にはわからない。
でも、僕がほんとうは彼が好きだと知られてしまったら、だましたみたいだし、次なんて絶対に来ない。だから、僕の本気だけは絶対にかくさなきゃいけなくて。
ぐるぐる考えて、必死にあそびなれていそうなひとたちの言動をふり返った。
そうして、飲み会の席でこそこそと、あそんだ相手に得点をつけては披露していたひとたちを思いだす。点数つけるなんて失礼だと思いながら、高得点と言われたひとのことは、ついつい気になってしまっている。
かくいう彼も、高得点をキープしていたうちのひとりだ。
そうか。得点をつけて比べるくらいの気軽さだとアピールするのも、あそんでいるっぽくていいかもしれない。
「お、起きた。からだ、大丈夫か?」
よし、と気合をいれた僕に、彼が話しかけた。
「あ……、うん。だいじょ…ぶ……」
恥ずかしさについ、語尾がもにょもにょとにごった。……いけない、これじゃ遊び慣れている風になんて見えないじゃないか。
「お前、いつもあんななの?」
「あんな?」
「相性もよかったと思うけど、すごかった」
「や、久しぶりだったから……」
「へぇ、燃えちゃった? 超敏感だったもんな」
「あ…、まあそんな感じ」
恥ずかしさに消え入りそうになりながら、なんでもないみたいに話す。
「なぁ、お前も良かっただろ?」
「あ、うん」
どうしても会話にぎこちなさが出てしまう。これじゃ、彼にばれるのも時間の問題だ。あわてて、彼のセックスは何点だろうって考えた。
正直、僕の経験だけじゃ百点を超えて、百二十点くらいなんだけど。でも、それじゃああそんでいるっぽくは受け取られないかもしれない。
「……九十…六点、くらいかな」
「え? なに、俺のセックスが?」
「うん」
どきどきしながら言ってみる。けれど言葉にしてすぐ、百点じゃないって怒るだろうかって不安になった。
「へぇ、百点じゃないんだ。俺はお前、百点だったんだけどな。……ふむ、けど九十六か。そりゃーリベンジしないとな」
「へっ」
どうやって次につなげたら、なんて考えていたのに思いがけず都合のいい方に転がって、自分でおどろいてしまった。
「次は百点超えるから。いつ空いてる?」
「あっ、えっと……」
急展開についていけずに戸惑った僕に「あー、ほかのセフレもいるか」と彼は勝手に納得して、ベッドサイドに放りだしてあったスマホを手に取った。それから僕のバッグを差し出して、スマホだしてと急かす。
「連絡先。LINE? それともDMのがいい?」
「あ……、LINEで」
「フーン、LINEね。望み薄ってわけでもないか」
「え?」
なんのことかと彼を見ると、早くしろよ、と先を急かされる。あたふたする僕からスマホを取り上げた彼は「これね」と僕のスマホに新しい連絡先を入れる。
ほい、と返されたそこには、小さくても彼とわかる格好いい後ろ姿のアイコンと、彼の名前。どきどきしながら、ありがとう、と返事をした。
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