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写真の側に置かれていた封筒で、その写真がどういう経緯でそんな所に紛れていたのか分かって、懐かしさで胸がいっぱいになった。
封筒の表面には、私の字で「各務さん」とだけ書かれている。
もう会うつもりはない親友、いや、それ以上の存在だったかもしれない彼の顔が脳裏に浮かんで、思わず笑みがこぼれた。この写真は、彼との思い出の品だった。
机の上に乗っている写真は五枚。私が写っているのは三枚で、その内一枚はサークルのメンバーとの集合写真だ。
由衣が、私が一人で写っている写真を摘まみ上げた。
「パパの服、ダサすぎでしょ。全然似合ってないじゃん」
由衣が笑いながら言うのに、真由が何度も頷く。
「この服、私と会うときもよく着てたよね」
「この服でデート? ありえない!」
馬鹿にするような口調に、私は些かむっとした。写真の中の私は、至って普通の開襟シャツとジーンズ姿だ。何が可笑しいのか、私には全くわからない。
「今と昔じゃ流行りが違うんだよ」
「あの頃でもダサかったよ」
私の精一杯の反論は、幸子の一言で無残にも撃墜された。
何かさらに反論しようとして口を開けたり閉めたりしている私に、コーヒー淹れてこようか、と幸子が笑いかけた。うん、と頷いて、私は敗北を認めた。
幸子がキッチンに消えるのを見送って、テレビでもつけようとリモコンに手を伸ばした。
「この写真って、何だっけ、電車研究会? の人?」
真由が、集合写真を指さして尋ねる。もう全部幸子が話したものと思っていたが、そうではなかったらしい。
「鉄道同好会、ね。そうだよ。僕が入会したときのメンバー。ほら、僕の隣に立ってるのが島田だよ」
「え、島田さんって、あの税理士の? こないだ、会社のことで家に来てた人でしょ? 今と全然違う」
由衣が目を丸くする。確かに、今の島田は典型的な中年体型で、頭髪も随分薄くなってきたが、写真の中の彼は当時の最新ファッションで細い身体を包んでいる。
「でも、何か服のセンスとかはなるほどって感じじゃん。おしゃれしてますって感じ」
「そう言われればそうかも。島田さんっていくつだっけ」
「歳は僕より一つ下だね。学年は一緒だったけど」
今度は二人とも目を丸くした。
「島田さんってパパより若いの。信じられない」
「まあ、パパは妖怪っぽいとこあるもんね。ママもだけど。友達にもよく若いお父さんお母さんだねって言われる」
妖怪って何だよ、と笑ってテレビをつけた。明日は行楽日和になるでしょう、と気象予報士が伝える。
「ねえ、どれが各務さんって人なの」
真由の一言にぎくりとした。
「その写真、各務さん写ってないよね。珍しいなと思って見てたの」
コーヒーを手に戻ってきた幸子が、そう言って写真を覗き込む。
「ああ、うん、そうだね」
テレビから視線を外さないまま、私は素っ気ない態度で返した。
「各務さんって、ママがブックマークしてるブログの人でしょ」
「そうそう。写真も文章も上手いし、知識もすごいの。それからね、すごいイケメンなんだよ」
「え、見てみたい! 写真無いの?」
目を輝かせる娘達に苦笑しながら、私はアルバムを取りに行くために立ち上がった。
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