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ケプルス!それはこの星の名を安直につけられた、この船の愛称である。ネーミングセンスと云う天然資源に乏しいこの星には、同じ愛称をつけられた船は幾隻も存在する。
しかし、俺が今乗っている、このケプルス――正式名称を朱雀号と云う――ほど相応しい客船はないだろう。
全長240m、幅28m、総重量5万t。大きさの割に娯楽施設は少なめ、しかし生活に必要な物は大抵揃っている。
客室の内容はどの部屋も同じで、レストランに近かったりと云った、位置によって値段が多少変化する。
富裕層のちょっとした旅と、それ以外の人々の贅沢を叶える仕様なのだ。
そう、この星は明確な二分化がある。
広大な海に浮かぶたった二つの島。航海技術が進歩した事で、邂逅が起こった。
発明家が飛行機を生み出し、魚を見ていた大衆の一部は鳥を見るようになった。
二つの島の交流の加速度は、時代の歩みの加速度を超えた。今や島間の移動にも芸術点を求める時代。一年の内に十往復以上している人もいるし、空派、海派は自己紹介の定番となった。
俺も自己紹介をしておこう。名前はハード樺ー。家族構成は親父おふくろ妹俺。自慢したい訳じゃないが、富裕層に属する。しかし、俺達はちょっとした旅行をしに来た訳じゃない。逃れるためにこの船に乗ったのだ。
ここ五年間、俺達は何者かに追跡されている。チェイサーの姿は見た事がない。しかし、家族だけが視線を感じたり、留守の間に物の配置が変わっていたりする事があった。
妹が、部屋を探る影を見た事で、事態は急変する。チェイサーに最低限の親しみを込め、"ゲンガー"と呼び、引越しを決意した。
新しい家にも慣れ始めた頃、例の視線を感じた。久し振りの感覚だったので、大根おろし器の様な鳥肌が立った。
異変が起きて一年、やっと辿り着いた真相は、"我々は何者かに追跡されている"、だった。
そして今も追跡されているので、この家族の唯一の取り柄である財産を消費し、定期的に引越しをしているのだ。
富裕を自慢している暇が無い事が分かっただろう。俺達は謙虚に、穏便に生きなくちゃいけないんだ。
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