Fin.Land

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 熱い。感覚は研ぎ澄まされ、神経は喉仏で決起集会を始めた。熱い物は一度、引っ込む。安心した時にS波が来る。知能を持つ様に、釣りの経験がある様に、期を待っている。  「今なんだな?!」  ビニール袋に黄金色が散る。やっとタイミングが掴めてきた。  「まず、腹の中でグツグツと湧くんだ。そして喉仏を一突きしてくる。しかし、ここで間抜けな釣人になってはいけない。第二波が来る。最初に受けた熱を覚えておくんだ。それより熱くなるまで耐えたら、こっちの勝ちだ。我慢している間は斜め30°を向くといい」  「素晴らしい言語化能力だな。ところで、お前が喋っている間もリバースは止まって無いけど?」  俺はそこなんだよな、と思いながら、昨日レストランで拝借したナプキンで口を吹いた。印刷されていた10円硬貨の肖像が汚く汚れた。  「俺、今までの人生で船酔いなんて1mmも感じなかったんだけどな…。今日の夕食もルームサービスで済ますよ。それで、まだ嘔吐するようなら餓死かな」  「最終手段として点滴があるな。水が飲めるだけ良い旅だ…乾杯」  「乾杯!もうルームサービスをエチケット袋にぶち込んだ方が省エネかも。これがタイパか〜」  シャボン玉が割れる様な感覚がした。ただし、自分はシャボン玉の中で息をしている様だ。金粉が混じった様な、泡の吐瀉物がダマスクのカーペットを濡らした。  かなり、焦った。言葉が出なかった。焦ってなかったら得意の実況見分を炸裂させていただろう。  「船医を呼ぶ。良いな?」  俺は頷くだけで必死だった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加