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潮の香が変わった。目的地が近付いている。あの辺りは塩分濃度が他より高かったはずだ。
目的地に着く前に、する事は一つ。着港する場所を高らかに叫ぶ事だ。
が、まだだ。島に着く実感が足りていない。
点滴に繋がれた腕を見る。味がしない。内容のない思い出を埋め込まれた気分だ。真の空腹は満たされていない。
点滴のチューブが虚っ方かもしれない、と疑える程に、だ。
七日間の船旅、順調に事が運んだ時間はなかった。確実が無い事が順調なのかもしれない、運命なのかもしれない。
この船は沢山の命を運んできた。母親の様に大きな安心感の裏には、その分膨らんだ裏切りがある。思えば、全ては母なる海で起こる劇だ。
良かった。テールに運ばれる俺達家族の命が独つにならなくて。毎日繰り返す嘔吐で、俺は命を、最後まで吐かなかった。
「泣き言も、だ。お前はこのクルーズで一度も弱音を吐かなかった。樺ー…お前、泣かなくなったな」
二人のお陰だ。二人の体はとても儚かった。だから、青銅製の精神は俺が受け継ぐしかなかった。
そして、カモメが三羽鳴いた。時間が来た。
「着いたぞ!目的地、"テール"…正式名称をThe Fin.land!」
点滴はいつの間にか消えていた。どこからかが夢だったのかもしれない。しかし、そんな事はどうだって良い。
着港。それは旅人が身分問わず喜ぶ瞬間だからだ。
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