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「追跡、ってのは、対象の後ろをトコトコついて行く事じゃない」
後ろの後輩は無言で鉛筆を動かす。彼にとって無言は肯定、了承の証だ。最近やっと分かってきた。
「追跡の必要事項は三つ。まず、相手の行動を読む事。純粋な追いかけっこはクソガキにもできる。右、左、と足を前に動かせば、誰にだってできる事だ。追跡はそう甘くない」
ビットを踏みつけると、乗っていた吸い殻が崩れ、蜃気楼が揺れた。
「二つ目、追う側が逃げてはいけない。戦略的撤退とか言う奴から潰れていく。漢字を並べれば格好良いと思っている中坊でも理解できる事実だ。そして最後!追跡とは、結末を生むために存在する!バッドエンドでも、メリーバッドエンドでも!!さあ、見てろ、良い例を今から見せてやる」
行動は大胆、劇的に。ターゲットがこちらに向かって来ているのだから。
冷静な時間は鳥打ち帽を深く被るまでだ。
確か奴は、メインターゲットの息子だ。名前は確かハーフ樺ー、と云ったか。ああ、そうだ。ハーフ樺ー。十六歳。血液型は検査してもらった事が無いが、両親共にA型なので彼もA型……。
情報がすぐにフィードバッグされる。良いぞ!寄木細工の秘密箱の最初の取っ掛かりを見つけた時くらい、爽快な気分だ!
移動の美意識が生まれると、カウンターとして追跡の美意識も生まれる。
ここは俺の殺人の美意識を立たせてもらおう。
俺は拳に力を込めると、ハーフ樺ーの腹にズブリ、と突き刺した。
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