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話題は儀式についてのものになった。大人たちは皆、真剣な表情で話している。「今度の儀式は大丈夫だろうか、ヨミヅレ様がお怒りにならないといいが」という声が聞こえる。萌香はおそるおそる尋ねた。
「あの……ヨミヅレ様は、なにか悪いことを起こすんですか?」
「私たちは大丈夫だけど、萌香ちゃんはまだなれていないから……だから、けっして見つからないようにね」
佐枝子は話をごまかすように手を振りながら言った。他の女性たちもどことなく落ち着かない様子だ。
「でも、もし萌香ちゃんが見つかってしまったら、どうしたらいいの?」
「逃げるのは難しいし、最後の手段は七悟さんの匂い玉を使うしかないね……」
「それがちゃんと効くかどうかが心配だけど」
皆が考え込む様子に、萌香は形容しがたい不安に襲われた。今の会話は、まるで自分自身に危険が迫っているようだ。
突然、萌香の手を誰かが引っ張った。
「萌香、星を見に行こう」
振り返ると笑顔の七悟が立っていた。彼は萌香の不安に気づいていないように見える。
「あっ、うん」
萌香はその場を離れたくなり、七悟について行った。灯りが遠ざかるにつれて、星々はよりいっそう、輝きを増す。七悟は足を止め、空を指差しながら星について説明し始めた。
「あの赤い星はベテルギウス。今まで発見されている中で一番大きな星だよ」
萌香は実際には見えないけれど、もっと大きな星が存在することを知っていた。
「あそこの星はすばる。何個見えるかで視力が確認できるんだ。萌香は何個見える?」
「六つです」
「じゃあ視力は正常だね」
星を使って視力を測定するなんて、初めて知った。視力検査法は世界共通の方法があるのだから。
けれど萌香は余計なことは言わないと決めている。非常識だと思われたくないから。
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