原因

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原因

 Y君から借りた教科書にはY君自身が書いた答案があった。  しかしそれを採点してみると、全て間違っていた。  このことを自分自身の頭で考えると、考えると共にわからなくなっていく感覚がある。    そこから三日間ぐらい、本当にそのことで頭がいっぱいになり、宿題どころではなくなってしまった。  しかし時間も時間なので、適当に回答を埋めてY君の家に返しにいく。  もう季節は夏ではなくなり、秋めいて涼しくなってきていた。  インターホンを鳴らすと、Y君のお母さんが出る。僕はお母さんに用件を伝えると、ニコニコしながら、 「どうぞお入りなさい」と言い、入らせてくれた。  母から聞かされた”Y君のお母さん”の印象が消えていくような、純粋な笑顔だった。  三日前に教科書を借りにきたときはY君が玄関まで来てくれたので家には入らなかったのだ。多分、これがちゃんとY君の家に入る初めての日なんだなと思った。仲が良かったので、変な感覚だった。  渡り廊下を歩いた先の右に渡ったところが、Y君の部屋だった。  Y君は僕を見て、「やあ」と言いながら弱そうに笑い、部屋に入らせてくれた。 Y君「ここは二人にして」 お母さん「はいはい」  お母さんは「ごゆっくり」と言いながら、ドアを閉める。  Y君の部屋は、広かった。多分今思うと僕の部屋の2倍はあったんじゃないかと考え始めた。    しかし、Y君の部屋の壁は、傷だらけだった。
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