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手紙
僕は教科書を返した後に少し雑談をし、帰ろうとすると、
「待ってくれ」とY君が言った。
ビクッとY君の方を見る。なんだか、痩せた感じがある。
「これを持って帰ってくれ」
渡されたのは、紙を折りたたんだものであった。
「なんだこれ」
「手紙だよ」
その言葉に違和感を覚えた。
「ここで話せばいいじゃないか」と僕が大きな声で言うと、
今度はY君がビクッとして、ひそひそ声で
「ここでは言えないんだよ」
何か恋のお悩み相談とかだろうと思い、Y君の部屋から出ると、
お母さんがニコニコしながら立っていた。
「これ、お母様に渡してちょうだい」
渡されたのは、洋菓子の箱だった。
「ありがとうございます」
お辞儀をし、家に帰る。
Y君と自宅はとても近い。2階の窓からY君ちを見渡せるぐらいだ。
家路を急いでいると、後ろから気配を感じた。
振り返ると、Y君のお母さんがこちらをじっと見ている。きっと安全に帰っているかを見守ってくれているのだろう。
これだけ聞くと、彼女はとても良い人なんじゃないか、と思う。子供が好きなのだろうか。
帰宅すると、母に洋菓子をY君のお母さんからもらったことを伝え、部屋に入る。
そして、Y君からもらった紙を鞄から出す。
開いてみようとすると、意外にもたたまれており、手間がかかった。
やっとの思いで開くと、そこには殴り書きの字で、
”殺される!助けてくれ”
と書かれていた。
逆にそれだけだった。
1993年9月16日の出来事だった。
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