事情

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事情

 Y君の転校が決まったのは、その日から2週間後のことだった。  皆で思い出を振り返ることもできたし、レクもやることができた。Y君がこの学校から出ていくという心の準備はできていた。    だが、”ふたつ”変なことがあった。まずひとつ。授業中や、休み時間の合間など、時間の間があるときにY君がこちらを見て、何かを訴えるような目をするのだ。何か言いたいのか…?  もうひとつ。クラスメイトがY君に向かって「転校の理由はなんなの?」や「なんで転校しちゃうん?」などと聞くと、頑なにY君は「家の事情」と嫌そうな顔で話をそらすのだ。最後なんだから言ってもいいのではないか、と思っていた。  まあ皆と別れるのが寂しかったのもあるだろうし、家庭の事情などもあるのだろう。それから皆は”そこ”に触れなかった。  その時、頭の中である言葉が反応した。  家庭の事情…。 ”正解がない答案” ”傷だらけの壁” ”具体的に書かれなかった殴り書きのSOSの手紙”  家族の誰かが関係していたのではないか。  Y君はいつも通り僕に何か伝えようとしていた。目で。  
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