第一章 天佑

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大きな額がかけられている立派な門をくぐると、目と鼻を楽しませる花壇に出迎えられ、天佑は茗峻の背を見失わない程度にきょろきょろと忙しかった。 その奥、布の下がった建物から蓮華が飛び跳ねるような駆け足で飛び出してきた。 「待ってたわ、天佑。今日から、ここがあなたの住まいよ」 綺麗で立派で、本当にこんなところに自分がいいのだろうかと、今更ながらに不安になって思わず茗峻を振り返ると、小さく頷いてくれた。 ほっと安堵に浸る暇もなく、蓮華が天佑の手を引いて中に入っていく。 硝子が入った綺麗な建物の中は広くて、豪華で、いい匂いがして、見たこともない置物が並んでいた。 これが全部蓮華のものだというのだから驚きで、今日からは天佑もその一員になると思えば、自分で決めたこととはいえ、信じられない気持ちでいっぱいだ。 「ここはお勉強をする部屋で、隣は食事をする部屋。珍しいものを並べたお気に入りの部屋や、あんまり使ってくれないけど茗峻用の部屋もあるわ。そして、一番奥のここが私の部屋。今日からここで天佑も一緒に寝るのよ」 はしゃいで説明してくれる蓮華に戸惑いながらも流されていた天佑は、最後の説明にぎょっとして立ち止まった。 「どうしたの? 私、少しくらいの寝相の悪さは気にしないわ。それとも、もしかして、私と寝るのは嫌?」 不安そうに覗き込まれるけれども、嫌とかいう問題ではなかった。 家族でもない女の子と一緒に、それも、お姫様とだなんて、許されるわけがないと天佑でもわかる。 蓮華が立つ傍らにある寝台だって、自分が知っているよりずっと立派でまっさらな布団が用意されていて、綺麗な帳までついているのだ。 だけど、目の前の蓮華に駄目だと思うと言うのも難しい気がして、後から追いついてきた茗峻を頼ってみつめてみた。 「……わかりました。許しましょう」 意外なことに、茗峻は蓮華の望みを認めてしまった。素直に喜ぶ蓮華と違って、天佑はびっくりしすぎて混乱してしまった。 「こういうのは駄目じゃないの?」 わからなすぎて、思ったまんまを口にすると、聞かれた茗峻は腕を組んで難しい顔を返してくる。 その眼差しが天佑の全てを見透かすようで、何も悪いことを聞いたとは思えないのに、体がそわそわと落ち着かなくなってきた。 「駄目だが、今は許そう。その辺の機微は追々教えてやるし、覚えていかなければ、傷つくのは姫様だ。嫌でも感覚を身につけろ」 茗峻の言葉は、やはり難しくて厳しかった。 だけど、やらなくてはいけないことなのは理解した。 そして、茗峻についていけば、蓮華を傷つけることはないのだろうこともわかる。 だから、返事をしておこうと口を開きかけたところで、蓮華に腕を引っ張られてよろめいた。 「天佑。あなたの主人は私よ。茗峻は教育係だけど、まずは私の言うことを聞きなさい」 そこにいたのは、すっかりむくれた姫様だった。 「いい、わかった?」 ちょっと睨みつけるような強い眼差しで、なのに、天佑は笑いたくなる気分になった。 「わんわん」  忠犬らしく吠え返したら、目を丸くした蓮華は笑顔になって「お茶をしましょう」と誘ってくれた。 それからずっと蓮華は宮の中で天佑を引っ張り回し、信じられないくらい美味しくていっぱいの料理を食べる時まで声は弾んでいた。
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