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「お前、年はいくつだ」
「……」
男児は、別人ながらも再び現れた大人の男に警戒心をむき出しにして口を引き結んだ。
「大丈夫よ。茗峻は無駄に大きいし口も悪いけど、悪人じゃないから」
その評価もどうなのかという公主の口添えで、男児は六つだと答えた。
「あらま、私と同じ年なのね」
公主は自分の腕や背丈と比べるのに夢中になっているが、茗峻と呼ばれる男は怪訝に考え込んでいた。
口減らしのために家族から売られてくる少年は珍しくもなかったが、さすがに十歳以下の子どもは受け付けていないはずだった。
と、袖が引っ張られたので辿ってみると、公主が話したいことがあるようだ。
なんですかと屈みこむと、口元に手をかざして、ひそっと話しかけてくる。
「どうしよう、茗峻。この子、帰っても待っている家族が誰もいないみたいなの」
「どうしようって、後先考えずに拾ってくるからでしょう」
好奇心が旺盛で、いつか犬や猫やうり坊くらいなら拾ってきてもおかしくなかったが、いきなり人間とは恐れ入る度胸だ。
「仕方ないですね。家まで送り届けて、ついでに職探しでも手伝ってきたらいいですか、お嬢様?」
「茗峻、ありがとう! 持つべきものは優秀な茗峻だわ」
「まさかとは思いますが、それで褒めてるつもりですか」
呆れている茗峻に、公主は両手を合わせて満面の笑みで見上げていた。
しかし、肝心の男児は流れに逆らって首を横に振り拒んだ。
「ちょっと、何言ってるのよ。そりゃあ、茗峻は無駄に大きいし、睨むと怖いし、性格もちょっと意地悪だけど、やることはやってくれる人なのよ」
これまた褒めているとは思えない評価を下された茗峻は、今度はちらりと公主に目をやっただけで、反論せずに男児の反応に注視した。
「僕は帰らない。ここにいる」
「……夢を見るにもほどがある。それとも、お子様だからと言うべきか。この方は、お前のものになるような存在じゃないぞ」
今度こそ、茗峻が凄んで忠告してやったのは、男児が示すここというのが手を繋いだ公主の隣を意味しているからだった。
しかし、男児は堪えることなく首を傾げた。
「僕が、この子のものになるんでしょ?」
出てきたのは短慮な答えで、しかしながら、それが真を捉えてもいた故に、茗峻は返事に困ってしまった。
そんな隙をついて「よし!」と公主は手を打って閃いていた。
「私、お願いごとを決めたわ」
一瞬、なんのことか理解しかねた茗峻は、すぐに思い至り青ざめた。
「まさか、例のお願いではないですよね」
「その、まさかよ。使うつもりなんてなかったし、使いたいと思うことがあるなんて考えもしなかったけど、人生、どうなるかわからないわね」
「駄目です、お嬢。さすがに認められません。あれを、こんなことに使ってしまうなんて」
「こんなことだから、いいんじゃない」
満面の笑みで断言した公主は「さあ、行きましょう」と子どもの手を引いて、王がお座す本殿へと向かっていった。
しかし、小汚い子どもとしっかり手を繋いだまま進む公主は、当然、見張りの門番に歩みを止められた。
「約束がなければ、公主様と言えども、お通しできません」
「だったら、王様に伝言をお願い。蓮華がお父様にお願いを行使に参りましたとお伝えして」
対応した男は、子どものままごとに付き合わされるのはご免だという本音を隠しきれずに使いに出た。
しかし、戻ってきた時には了承の旨を携えて、王ご自慢の庭園にある東屋へと案内することになるのだった。
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