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飯村が感動をしている間にも、フンフンフン♩とご機嫌なハミングが聞こえてきていた。
今日は寒いとはいえ天候に恵まれた上に仕事も順調だ。山中の気分が良くなるのも分かる。
けれど、仕事中なのだから山中は歌なんて歌わず身を引き締めてほしい。と飯村は考え始めていた。
「山中、そろそろ目的地に着くから大概にしーや」
だから飯村はインカムで前を走る山中へと声をかける。
ざざ、というノイズの後に「なにー?」と間の抜けた返事があった。
「仕事中なんやから、それ止めろ言うとるんや」
「何が〜?」
山中は仕事中だろうが休憩中だろうが飯村にはよくふざけた態度を取る。つまらないジョークを言ったり、目があっただけで謎のダンスを踊ったりするなんてことは珍しいことではない。だからこの返答もおふざけの1つだと思った飯村は少し声を強めた。
「鼻歌止めろ言うてるねん!仕事中なんやから!」
「はぁ〜?歌ぉてないんやけど」
だがしかし、山中は冤罪をかけるなと抗議するように怒鳴った。
飯村と山中人間以外なんて存在しない氷の大地の上で彼は不機嫌を露わにし、「変な薬でも飲んだんか」と飯村を馬鹿にする。
だが飯村はその煽りをまともに受け取ることができなかった。
突然の出来事に、反射的にスノーモービルのブレーキをかけ、Gに耐えながら体がぶっ飛ばされないようにハンドルにしがみ付いたからだ。
十分な厚みがあるはずの氷の大地が地割れを起こしたかのように割れ、先を行っていた山中がその隙間に落ちた。彼は、声をあげて助けを求める隙も無く、スノーモービルに跨ったまま、真っ黒な海へと引きずり込まれるように落下したのだ。
フンフンフン♩のハミングとともに、山中は深い海の底へと沈んでいった。
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