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飯村は内臓が冷えたような気持ちになった。クァルパリクは人魚だ。
人魚ということは、海で暮らす生き物ということだ。それなら海の幸を食う生き物を敵とみなす可能性だってある。
どうして今日に限っておにぎりの具を海鮮中心にしてしまったのかと自分を責める。つばを飲み込む音が自分の耳の中で響いた。無意識に呼吸が荒くなっていく。
『プカク、鮭好き』
しかし、飯村の心配をよそにプカクは彼を歓迎するように笑った。そして飯村からおにぎりを受け取り一口でそれを頬張る。
咀嚼するたびに鋭い牙と緑色の舌が見え隠れした。緑の頬が膨み、もちゃもちゃと音を立てておにぎりを味わっている。
『うまい』
にっと笑い、プカクは鼻歌を奏でながらおにぎりを味わった。フンフンフン♩と歌って左右に揺れる。人を食おうとした化け物であるはずなのに、飯村にはプカクが機嫌の良い子供に見えた。
『プカク鮭好き。だけど今年、食ってない。久しぶり。うまい』
「ふ、不作なんですか?」
プカクは返事をせず、真顔のままおにぎりを飲み込んだ。そしてすぐタラコのおにぎりへと手を伸ばす。それもうまいうまいと言って食べる。
しかし山中はプカクの足元に置かれたままだ。プカクの気分次第で山中の命運が決まる状況であることは言うまでもない。
『……もっとうまいのある?』
そして飯村を試すかのように、意味深に呟いた。
『おにぎりはうまい。でも、鮭も、タラも、海潜ればいる。これならプカク、普段も食ってる。なら人間の肉の方が膨れる』
指先の米粒を舐めとりながら、プカクは水かきのある足で山中を蹴った。人間によく似ているのにプカクには瞼がないから、感情がとても読み取りづらい。
「ま、まだあります。まだ、ちょ、ちょっと待って……」
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