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『プカク以外のクァルパリクに気をつけて』
「え?」
プカクは胡坐をかいて2個目のおにぎりを食い始めていたが、話し方は先ほどよりも硬く、警告するように切り出した。
飯村は山中の治療を行いながら、プカクの言葉に耳を傾ける。
『プカクまだ子供。狩り下手。だから何でも食べるしかない。でも大人のプカク、狩り上手。自分の好きなものしか食わない』
「そ、そうなん?」
『この辺、人間が好きなやつの狩場。氷割れたの、多分罠のせい。そいつにはプカクが壊したって言う。プカク、子供だから許される』
淡々とプカクは注意を続ける。
『だから、この辺もう来ない方がいい。危ない』
「……プカク。いいやつやな」
『へへ』
プカクは照れくさそうに笑うが、同時に名残惜しそうな顔をしていた。
『お前もいいやつ。プカク人間の食いもん気に入った。プカクは、大人になっても色んなもん食いたい。だからプカク、人間食わないようにする。でも、大人のせいで、プカクきっと人間に嫌われる。きっと人間の食いもんもう食えない……』
「人間に優しくしていたら、きっとまた色々食えますよ」
『ほんと!?』
飯村はまるで自分の息子に笑いかけるように、自然にプカクへとほほ笑んだ。子供のクァルパリクの純粋な言葉が、息子の歯の抜けた笑顔と重なったのだ。
プカクはおにぎりを全部食べると、ぺたぺたと氷の淵まで歩いてぼちゃんと海へと飛び込んだ。そして氷面から顔を出し、『ご飯ありがと』と礼を言った。
『お前なんて名前?』
「い、飯村です」
『イームラ!また会ったら、プカクに悪魔、食わせてね』
プカクは笑顔で手を振ると、そのまま海の中へと消えていった。
フンフンフン♩という鼻歌が聞こえなくころには、周囲には氷が溶けていく音と、野生動物たちの鳴き声だけが木霊していた。
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