君の舌に触れるもの

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「ねぇ、東雲くん彼女はいるの?」 「何でそんなこと聞くんだよ」  コップにお茶を注ぎ、ボトルを冷蔵庫へ入れながら横目で母親を見た。手元の箸は休まず動いていたが、母親の視線は何かを思い出すように右上を見ており、尚も楽しそうに笑っている。 「だって可愛い顔してるから。モテるでしょ? そういう話は聞かないけど、どうなのかなって」  クラスの女子が言うようなことを母親から聞くと、首回りがムズムズとしてどことなく気持ち悪い。 「今はいないよ。興味もないって」 「えぇ、どうして?」 「何でもいいだろ。ご飯出来たら呼んで。取りに来るから」 「一緒に食べたらいいのに」 「そういうのもいいから」  母親の話が盛り上がらない内に俺は逃げるようにキッチンを後にした。  母親の機嫌が良かったのは、もしかしたら東雲がいたからかもしれない。可愛いと言うだけあって、母親もお気に入りなのだろう。  東雲はとても女子受けのいい顔をしており、学年で競っても一位二位を争うほど綺麗な顔立ちをしている。その話は同級生のみならず、先輩や後輩の間でも噂になるほどで、親しみやすくよく笑う性格も相まって、東雲に告白する女子は後を絶たない。  ただ、東雲は確かに整った顔をしているが、俺は可愛いというよりは美しいという方がしっくりくる気がする。少し深い堀はハーフのような顔立ちで、長いまつ毛が瞳に影を落とす情景は儚げで、美術作品のように眺められるのだ。
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