君の舌に触れるもの

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「今日の晩ご飯なんだった?」  部屋へと戻れば、東雲は俺が出て行った時のままの格好で、期待に胸を膨らますように目を輝かせた。ご飯を食べることが好きな東雲は、俺の家に泊まると必ず献立を聞く。しかし、母親との会話が嫌で逃げてきたせいで聞き忘れてしまった。 「悪い、聞くの忘れた。何か炒めてたけど」 「は? あり得ねぇ。今日の献立が気にならないとかどうかしてる」  丸く輝かせていた瞳は途端に細められ、眉を吊り上げて悪態をつく東雲に軽くため息をつく。 「どうせもう直ぐ出来んだからいいだろ」 「それでも気になるもんだろ。お腹すかないわけ?」 「すいてるけど、それとこれとは関係ないだろ」 「いや、あるね。あと少しでこれが食べられるのかって心躍るだろ。そしたらお腹ももっとすく。そうすればご飯の楽しみが何倍にも増える。それが分からないとはお前もまだまだだな」 「何目線なんだよ」  人差し指を立て、左右に振りながら偉そうに振舞う東雲に笑いながら、いつものくだらないやり取りをして晩ご飯が出来るまでの時間を過ごす。  そうすれば、お願いしていた通りに母親がご飯が出来たことを階下から告げてくれ、それを取りに行こうと立ち上がった。すると、それを止めるように東雲が広げた掌を突き出した。 「いや、待て。今日は下で食べよう」 「は? 何で?」  今まで何度か一緒に食べたことはあるが、東雲がいることにご機嫌になる母親と一緒に食べたくない俺は、突然そう言い始めた東雲を見つめる。 「献立何かなって考えてたら滅茶苦茶お腹すいたから。おかわりさせてもらおうと思って」 「献立知ってても知らなくても一緒じゃんかよ」 「俺は想像力が豊かなんだ。ほら、下りようぜ」  さも自分がここの家主かのように促す東雲に呆れつつも、気分屋なのは今に始まったことではない。仕方なく諦めて一緒におり、明らかに声のトーンを上げる母親に嫌気がさしながら食事を共にした。  人懐っこい性格は俺の母親相手でも変わらず、今日は仕事で帰りが遅い父親とも仲がいい。だからこそあまり社交的ではない俺も東雲と仲良く出来ているのだろうが、そのコミュニケーション能力の高さには脱帽する。  和気あいあいと話をしながら、食欲の増す中華系の献立に、東雲は遠慮なくおかわりをしていた。元々早食いではあるが、いつもに増して早い気がして、余程お腹がすいていたのかもしれないと、少しおかしくなった。
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