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「また、自殺する夢?」
「そ。リアルすぎて嫌になるよ」
俺の背後で体を落ち着けた東雲は、慣れたようにそう答えた。
初めて俺の隣に潜り込んできた時、東雲はたまに悪夢を見ることを教えてくれた。決まって自殺する夢で、血の気が引く感覚で目が覚めると言っていた。
しかし、動悸がしたり飛び起きたりするような激しいものでは無く、夢を見ている時も起きた後も、とても静かで静寂に包まれているらしい。ただ目が覚めた後に残るのは、死にたいという自殺願望のみで、一人でいると死にたくなるから隣にいてと、悪夢を見た日は一緒に寝るようになった。
そんな東雲を拒絶することも出来ず、暑苦しいこの夏に、一緒に寝ることを許している。
「何で見るとか、心当たりないのか?」
「ないよ。いつ見るかも分からない。葛原は悪夢とか見ることある?」
「見たことない。そもそも夢もそんなに見ない」
「羨ましいな。俺も夢を見ない体質だったら良かったのに」
「楽しい夢を見ることは?」
「あるよ。でも、嫌な夢の方が多いかな」
そう話す東雲は淡々としていて、いつもと変わりないように感じる。それでも、この時の東雲は感情が抜け落ちてしまったように無表情になることを俺は知っている。
一度だけ、東雲が起き上がった気配で目が覚めたことがあった。ベッドで寝ていた俺から、起き上がった東雲の顔はよく見えた。まるで感情が抜け落ちてしまったかのような、呆然とした表情がとても印象的だった。いつもの人懐っこい笑みはどこにもなく、同一人物だとは思えかったからだ。
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