君の舌に触れるもの

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葛原(くずはら)、明日ひま?」  金曜日の午後。うだる暑さもいくらか落ち着き、惰性でセミが鳴き続ける時間。クーラーの効いた俺の部屋で、友人の東雲(しののめ)創聖(そうせい)がベッドに寝転がり、携帯をつつきながら俺の予定を伺う。 「特に予定はないけど」 「なら、俺の用事に付き合ってよ。朝十時に俺ん家に迎えに来て」 「お前の用事に付き合うのに、迎えに行かないといけないのかよ」 「だって暑いじゃん。今だって暑くて入り浸ってんのに。お前ん家、もうそろそろ晩ご飯の時間だよな?」  『帰らないといけないよな』と言い始めて早一時間が経ち、仕事から帰宅した母親も晩ご飯の仕度をしている時間だ。  しかし、東雲が来たらいつも長くなることを母親は知っているので、東雲の分も作っているはずだ。こちらの都合を気にしたところで今更である。 「いっそのこと泊まれば? 母さん、もう東雲の分も作ってるだろうし。明日出かける前に家に寄ればいいだろ」 「先週もそれで泊まったじゃん。俺泊まりすぎじゃね?」 「逆に今更遠慮するなよ。うちの家族も慣れっこだよ」 「葛原の家は居心地が良すぎるんだよ。俺の部屋よりも落ち着く」 「そりゃ良かったな。お茶取りに行くついでに母さんに言ってくるよ」  帰ると言わないことを勝手に肯定と受け取り、空になっていた東雲のコップを一緒に持って下へと降りる。キッチンにはやはり晩ご飯を作り始めている母親がおり、何やらご機嫌で鼻歌を歌いながら炒め物をしていた。 「東雲、今日泊まるから」 「やっぱり? 靴があったから、そんな気がした。外暑いもんね」  東雲は暑いのが大の苦手で、夏になると部屋にクーラーのある俺の家に遊びに来ては、外の暑さを理由にそのまま泊まることがよくある。  高校に入ってから仲良くなった間柄だが、この二年の間に数えきれないほど泊まっており、夏の恒例行事のようになっていた。
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