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この頃、夜が明けるのが遅い。
いつも通りの時間に目が覚めると、最初は真っ暗だったが、段々と夜が明けていき、空は濃いブルーになる。
糸魚川駅から新幹線に乗るとスーツ姿のビジネスマンで溢れかえっていた。
通路側に座ると、隣の席のサラリーマンは夢中でパソコンを打っている、
早朝、店長に仕事を休む旨を連絡すると「言ってこい」と快く休ませてくれた。
やっさんもそうだし、俺は周りの人間に恵まれている。
あの頃より、少しまともな人間になれたと思う。
父ちゃんに会ったら
「何しに来たんだ?」
「お前とは親子じゃない」
「部外者は出て行け」
そう言われそうな気もするけれど、俺だって父ちゃんを守りたい。
やれることはやりたい。
たった一人の家族だし。
車窓はあっという間に田園風景から、工場群になり、都会のビル群になる。
東京駅でおじさんは待っていてくれた。
おじさんとタクシーに乗り、会社を目指す。
「今日は会社に一日中居るはずだ」
「相変わらず会社が大好きなんだな」
「お父さんは、光一君がいた時と比べて孤立してる」
「佐々木専務は?役員じっちゃん達は?」
父ちゃんは会社の立ち上げから、おじさん含めて、仲間達とみんなでやってきた。
「ほら、昔は光一くんが専務達とも仲良くして可愛がられてただろ?
光一君が居なくなってから、専務は専務で会社の経営権を握ろうと画策するしさ、会社はめちゃくちゃだよ」
「俺も役に立っていたことがあったんだな」
「だからこそ、裕樹君達は君を一番先に追い出したんだ」
裕樹と遊んだたくさんの思い出が頭を駆け抜け大きなため息をついた。
俺より遥かに優秀で、優しくて、兄さんと慕ってくれていた。
「自慢の弟だったんだよ」
おじさんは何も言わなかった。俺が可哀想だと同情していたんだと思う。
俺のスマホの着信音が鳴る。
翡翠かと思って喜んで画面をみると、裕樹だった。
噂をすればなんとやらだ。
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