1.翡翠との出会い

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俺はとある高層マンションの25階に来ていた。 チャイムを鳴らすと和也がひょうひょうと出てきて俺を出迎える。 こいつは幼稚園の頃からの俺の唯一の親友だ。 「横領の罪なすりつけられて、親子の縁切られたんだってな」 snsの普及により、このようにして仲間内には一瞬にして情報が回る。 「祐樹に嵌められた」 握り拳をギュッと握る。 和也は顔色ひとつ変えずにこう答えた。 「いつかやると思ってたよ」 「おまけに、朱里が出て行った」  和也は顔色ひとつ変えずにこう答えた。 「いつかやると思ってたよ」 こいつは能力者なのか?全て予言していたというのか? そして和也は冷蔵庫から、ペットボトルのコーラを出して、俺にくれた。 俺には頼れるのはこいつしかいない。 「頼む!しばらくここに住まわせてくれ」 「無理、友達に施しはしない」 「俺がファミレスで醤油ぺろぺろしてもいいのか?」 和也は顔色ひとつ変えずにこう言った。 「働け」 「俺たち親友だろ?」 「働け」 俺は涙を溜めながら蓋を開け、コーラを一口飲む。 「今いくらあるの?」 ポケットから財布を取り出し、机に全財産を並べる。 「531円だ」 「……働け」 「無理、無理、バカで無能な俺は絶対無理。そうだ、俺も和也みたいに動画作って」 「無理だ、俺が一年必死に頑張って、登録者512人、収益ゼロだぞ。よくわかってんだろ?」 ふと頭に和也の動画が思い浮かんだ。 「こんにちは、金持ちの道楽息子。和也です。今日は金に物を言わせて、コンビニのお菓子買い占めました」 視聴数345、高評価15、低評価1だった。高評価は勿論、仲間内で押してあげたものだ。 「お前も何かやりたいことねぇの」 「ない」 和也はため息をつき、リモコンを操作して、大きなモニターに動画を映した。 「光一に良い話がある」 モニター画面に新潟県糸魚川市・翡翠海岸と文字が現れた。ユウチュウブのようだ。視聴者数4321234回というとてつもない数字が表示されている。 比較的若いインテリ風の男が画面に現れた。背景は勿論海だ。 インテリ男は話し始める。 「こんにちは、関東大学助教授、源田翔太です。早速ですが、宝石が拾える海岸があるのをご存じでしたか?ここ、新潟県糸魚川市では、ヒスイという宝石が拾えるんです。実は私、ヒスイが大好きなんです。もう一回言いますね。翡翠が大好き」 和也よって早送りされ、次のシーンではインテリ男が手に緑色の石を持っている。 「見て下さい、これがヒスイですね。品があって美しい」 ヒスイに目が釘付けになる。こんな綺麗な石が海で拾えるのか。 和也はここで動画を止める。 「今度、俺とお前であそこに行って宝探し動画撮らねぇか」 俺と和也は見つめあう。 「費用は全部出す。光一だったら、ビジュアルが映えるから女性に受ける。それで収益化できたら、利益は半々だ」 そして俺はソファに立ち上がった。 「今すぐ行くぞ。俺、あの街に住む」 俺の決意とは裏腹に和也は明らかに戸惑っている。 「残金531円だぞ」 「ヒスイを拾って売れば働かなくていい」 「住む家は?」 「行ってみればなんとかなるだろ?」 「さすが光一。考えなしで無茶苦茶。でも、そこがお前のいい所だ」 「トレジャーハンターになってあいつらを見返す!奪われた全てを取り戻す!」 ようやく見つけた、これが俺の真にやりたいことだった。神様が俺に与えてくれた職業なのだ。 けれども現実的で夢を見ることができない和也は唖然と俺を見ていた。
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