1.翡翠との出会い

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母ちゃんが入院していた病室に幼い頃の俺はいる。 ベッド脇には父ちゃんの秘書が持って来た高そうな花が飾ってあった。 母ちゃんは具合が悪そうにベッドに寝ている。 そして暇を持て余した俺は、綺麗な石を机に並べた。 「母ちゃん、これみて」 母ちゃんは起き上がるのもやっとのはずなのに、起き上がり「わぁ、すごいね」と俺に笑顔を向けた。 「俺、大きくなったらトレジャーハンターになる。綺麗な石、たくさん集めて母ちゃんにあげるね」 「ありがとう、光一」 「だから、早くお病気治してね」 母ちゃんは俺を見て微笑んだ。 目が覚めるとそこは病室ではなく潮の香りが漂う海だった。 和也と知らないオヤジ、知らない女達、太り気味のメガネの子供が俺をのぞき込んでいる。 「母ちゃん」 そう呟き周りを見渡す。 性格のきつそうな女が俺に明確な悪意を向けた。 「あなたねぇ!」     するとヤクザみたいなびしょ濡れの親父が女を制し、俺に顔を近づける。 「お前、何であんな沖に行ったんや」 俺は後ずさりし、余りの恐怖に泣きそうになる。そういえば、俺はヒスイを探しに来ていて溺れかけたのだ。 「ごめんなさい。ヒスイを見つけたくて」 しかし、俺を助けてくれたであろうヤクザの怒りは収まらない。 「この海岸は波が高いんだよ!浜辺に落ちてる石を探せ。これで死亡事故でも起ころうものなら、この町の観光業丸ごとダメになるんだよ。わかっとるんか!」 マジで怖い、怖すぎる。後ずさりする。 「ごめんなさい、ごめんなさい」 キツそうな女が堪えきれなくなり、俺に凄む。 「ヒスイと自分の命どっちが大切なの?」 今の俺に何の価値もない。 「ヒスイです」 そう答えると女は尚更怒った。 「はぁ!?」 和也が慌てて俺と女の間にはいる。 「彼にも色々理由があって、話し出すと長くなるんですが。これこれしかじか」   「それで今日ここに来ました」 和也が面白おかしく俺の境遇を話すと、ここにいる奴らは同情するどころか、呆れ果ててため息をついた。 こいつら、人の人生を何だと思っているんだよ。
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