1.翡翠との出会い

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小太りの小学生が得意気に眼鏡を上げる。 「話を整理すると。ここにいる光一さんは、ちゃんと仕事もせずにプラプラ遊んでばかりで、義理の弟に嵌められて仕事を首になって、恋人にも逃げられて、そして、今531円しか持ってなくて、それでも働きたくなくて、人生を一発逆転するためにここに来たってことですか?」 完全に俺のことを舐め腐っている小学生を和也は誉めやがった。 「そう、君賢いね」      すると、キツそうな女が怒り顔で立ち上がる。 殺られる、思わず身を守るためにしゃがみ込んだ。 「だから、お宝なんてそう簡単にみつかるわけないでしょ?ちゃんと働いて」 するとヤクザが女を諌めるとこう言った。 「光一君のこと気に入ったよ。俺も昔こんなんだった。他人事だとは思えない」 きつい女は顔を顰めたけれど、俺は嬉しかった。和也以外にこんな俺のことを気に入ったと言ってくれる人物がいたからだ。 俺も頭を下げた。 「ありがとうございます」 「俺、道の駅経営してるんだけど、そこの食堂が人足りないんだ。働くか?」 ヤクザは俺の衣食住を世話してくれようとしている。けれど、俺は断った。 「いや、ヒスイさえ拾えれば働く必要はないので」 和也は俺の背中を叩いた。 「見つかったか?今日の夕飯食えねぇぞ」 現実をつきつけられ、落ち込むとヤクザが笑った。 「じゃあ働くしかねぇな」 その一言に絶望を感じる。このバカで無能な俺が働けるわけないだろうが。 「住むところも古くていいなら、使っていい部屋がある」 ヤクザの一言に思わずバンザイした。 俺はマンションを追い出された家なき子、こんなありがたいことはない。 ヤクザはきつい女に話しかける。 「翡翠ちゃん、遅刻してきていいから、光一君にヒスイのこと色々教えてやってよ」 もしかして、この女も翡翠という名前なのか?それに、こんなキツそうな女に教わりたくない。 女も女で俺に教えるのが相当嫌らしい。 「なんで、私が?こんなやつに?!」  すると小学生が「ぼく、これから学校が」と言い訳がましく言った。 子供の母親も「私も仕事あるし」といやそうだ。 田中は翡翠という女に頭を下げた。 「お願いします、僕らじゃ、どれが翡翠かわかんなくて」     和也は俺にも頭を下げろと目配せをする。だから、嫌々頭を下げる。 「……お願いします」 ヤクザは再び翡翠に甘い顔をした。 「翡翠ちゃん、頼むよ」 翡翠はため息をつく。 「顔と名前とか映るの嫌なので、そこだけちゃんと編集して下さい」 和也と手をあげて喜ぶ。 ヤクザも嬉しそうだ。これはきっと人情派のヤクザなのだろう。 「それが終わったら、連絡して、住むところ連れてくから」 ヤクザは俺の衣食住どころか、翡翠探しまで世話をしてくれた。 なんていいやくざなんだろう。 和也とガッツポーズをすると、翡翠がめちゃくちゃいやそうな顔をしてこちらを、眺めていた。 俺も向こうも同じことを考えている。 あいつまじできらいだわ
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