1.翡翠との出会い

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ちゃらんぽらん男の片方は、光一という名前で、さっきから彼は浜辺にて、石を拾っては海中に捨てている。 まだ常識のありそうな方の男は和也さんというらしい。カメラで光一さんを映しながら、私が不快にならないように、気を遣っている様子が感じられる。 「簡単に言えば、私たちは、近所に住んでる翡翠愛好家の集まりです」 「趣味が合う仲間っていいですね」 和也さんは当たり障りのない返答をする。 光一さんはよっぽど翡翠が欲しかったようで、一心不乱に石を探す。 あのバカみたいな話が本当だとしたら、彼は翡翠に人生をかけているのだ。 バカみたい 「緑の石がない」 光一さんがそうさけんだので、思わず助け舟を出した。 「ヒスイっていうのは、緑のイメージがあるんだけど、白い方が多いですよ」 やっさんから頼まれてるし。 「白も?これは?」 光一さんは明らかに翡翠ではない石を手に待った。 「これは、石英っていう水晶の仲間」 そう親切に教えてあげると、光一さんは調子に乗った。 「親分、これは?」 「親分?」 「名前出したくないんだろ?じゃあ親分って呼ぶしかない」 私は持っていた石を力一杯握りしめる。    こういうつまんない冗談を、ウケると言う男が何より嫌いだ。 すると和也さんは保護者のように深々と頭を下げる。 「本当にバカでごめんなさい。あっ、翡翠っていい名前だね。オンリーワンって感じ」 「同じクラスに3人翡翠ちゃんいました」 そう答えると、和也さんは動揺した。 ここらへんは何でもかんでも翡翠と名前をつける。私も例に漏れず。 光一さんは、白い石を手に持つ。 「親分、これは?」 こめかみがぴくぴくしていたが、やっさんに頼まれた以上、答えないわけにはいかない。 「……それは、つるつるしてない。そういうのは流紋岩」 翡翠はそんな簡単に見つからない。翡翠愛好家の私でも丸一日探しても、見つからない時もある。 光一さんは懲りずにまた新しい石を拾う。 「うわっ、緑色の石だ」 「これは。緑色石。翡翠は、もっと角ばって、重くて、キラキラしてる。太陽にかざすと光るんです」 光一さんは目を輝かせた。本当に翡翠が好きなようだ。 「角ばってて、キラキラしてる。これだ」 光一さんは明らかに翡翠ではない、緑の石を手に持つ 「それは、ロディン岩。きつね石って呼ばれてる。きつねにつままれたように騙されるから。濡れてるとヒスイそっくりで綺麗だけど、乾いたら、粉っぽくてがっかりなんだよね」 「これも欲しい」 光一、さんはポケットにしまう 「なんできつね石まで?」 その不可解な行動が気になって仕方がない。 「この石をピカピカにして宝石にする」 光一さんはキラキラした眼差しでキツネ石を眺めている。 「確かにどんな石も磨けばピカピカになるけど、私は磨く前の原石が好き。自然の綺麗さがいいんでしょ」 光一さんは呆気に取られた。私何か変なこと言った? 和也さんが光一さんの肩を叩く。 「そのままの君が好きってことだ」 光一さんは涙を流す。 「俺も原石のまま、今のままでいいよな」 何をふざけたことを言っているのだろう。 私は錆びた石を拾った。 「光一さんは、この石みたいに錆びついてるから、錆錆のさびっさび。錆はクリーニングした方がいい。いい機会だから、ちゃんと働いて自立すれば?」 光一さんは涙を流し、悔しがり、泣きそうになる。
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