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やっさんがこのバカ男に使ってもいいと言ったのは、よりにもよってアパート日本海の101号室だった。
外見こそ古いものの、1LDKで家具が揃っている。
この部屋はやっさんや奥さんの手によって綺麗に手入れされており、埃一つたまっていない。
複雑な思いが顔に出ていたようで、やっさんは
「いいんだよ、使って貰えた方が助かる」と豪快に笑って見せた。
あいつらは、呑気に部屋を見て回っている。
「いい部屋だな」
「あるものは何でも使って」
光一さんは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
さすがにやっさんに感謝しているようだ。
「俺も近くに住んでるんだけど、いないことも多いから、困ったことあったら翡翠ちゃんに聞いて。向かいに住んでるから」
やっさんはよりにもよって、私の移住地をペラペラと話した。
思わず顔と声に本音が出た。
「えーいやだぁ」
光一さんとこれ以上関わりたくない。そしてそれは光一さんも同じだったようだ。
「頼らない。一人暮らしは慣れてるから」
私と光一さんは、ガンを飛ばしあった。お互いにお互いが気に入らないのだ。
和也さんがスマホの時間を確認する。
「そろそろ新幹線の時間だ、来週、また見に来るから、頑張れよ」
そろそろ私たちも仕事に戻らないといけない。
やっさんと目を合わせる。
「じゃあ、俺たちも仕事行くな。そこのカップラーメンとか食べていいからね」
光一さんは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「明日、朝から仕事行く準備しててよ」
そして私たちは玄関から出ていく。
外はよく晴れた秋晴れで、潮風が微かに吹いていた。
本当にあの人、この街で暮らしていくのだろうか。
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