63人が本棚に入れています
本棚に追加
渋い顔をした父ちゃんが椅子に座り、黒髪で真新しいスーツを着た俺が目の前に立っていた。
「お前、明日から月一回の出社でいい」
「なんで?俺、ちゃんと働くよ!」
「お前がいると、周りが尻ぬぐいで大変
なんだよ!俺に恥かかすな!」
あまりの言葉に思わず涙がこぼれそうになる。
俺はたった一人の肉親である父ちゃんのために
、一生懸命に働こうと精一杯やっていた。
父ちゃんは顔色ひとつ変えない。
「祐樹がお前の分も働いてくれるから心
配するな」
そう、俺は無能だ。働くことも許されないのだ。
目を開けると見知らぬ部屋に寝ていた。
ここはどこだ?
そうだ、昨夜全てを失って、今朝ここ糸魚川市に来て、やっさんに拾われたんだった。
そういえば、明日から食堂の仕事を手伝わなければならない。
俺は働けるのか?
けれど、働かないと生きていけない。
バカで無能なおれに仕事なんてできるのか?
不安が身体中を埋め尽くしていく。
今から東京に帰って父ちゃんに泣きつけばなんとかなるんじゃないのか?
ふと、机の上を眺めると翡翠がある。
美しい薄緑色に魅かれて翡翠を握りしめると、ひんやりとした重さを感じる。
翡翠、もっと欲しい。
けれど働きたくないよ、母ちゃん、どうしたらいい?
最初のコメントを投稿しよう!